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2016年9月11日 (日)

「#ラノベの仕事したい」持ち込みオフライン交流会 ~第2回~ を覗いてきた

「#ラノベの仕事したい」持ち込みオフライン交流会 ~第2回~

というイベント開催情報を掴んだので、去年の記事で紹介したワトウ氏と一緒に参加してみた。
このイベント、第2回目なのだが、実は筆者は第1回目もワトウ氏とともに参加していた。
その時の比較も合わせて、例によってTwitterの感想ツイートと一緒に軽くイベント内容を振り返ってみたい。
今後、ラノベの仕事がしたいと目論んでいて尚且つこのイベントに興味を持った人に届けば幸いである。

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始めに、イベントの流れを軽く触れておこう。
イベントはほぼ自由スタイルである。
参加者はそれぞれに『物書き』『イラストレーター』『編集・その他』と振り分けられ、それぞれに青・赤・黄の色分けされた紐がついた名札(名刺)を首からぶら下げて会場にたたずむ格好になる。
つまり、その色でその人がどの立場にあるかを軽く見分ける形になる。
イベントが始まれば、みんなその色から判断してそれぞれに目的の人へ話しかける。
といっても、もちろん編集の人間がターゲットになるわけで。
つまり、物書きやイラストレーターは黄色い紐を下げた編集を見つけ出して話しかけ、それぞれの作品をその場で提示して交渉する形になる。
話が進むようならば、個別のスペースや部屋も用意されていて、そこでじっくりと話し合う。
交渉といっても、もちろんここでいきなり具体的ビジネスな話に発展しているわけではない。自分は交渉の席に座ったわけではないのだが、恐らくその会社(レーベル)が求めている作風とは、仕事の流れはどのようなものか、などの説明に終わっているのだろう。もちろん、作品への意見を貰っている人もいるだろうが。
第三者目線で印象を書くにすぎないのだが、お互いが(特に編集側が)手探り状態に見えた。

当然、編集の人間もそれほど多くないので、待ち状態の人が多く生まれる。そういう人たちはそれぞれに何となく話し掛けあいながらそれぞれの事情を伺い合う。

Akibapop20160910_2jpg_large

会場の真ん中には、写真のような駄菓子が置かれていて自由に食べらる。

第2回目の特徴として、別室にて新進気鋭のレーベルが個別に企画の説明会を開くこともあった。
筆者は参加しなかったのだが、こういう流れはこの企画全体を特徴づけるものとしては興味深い。
そのレーベルのイベントに対する本気度もうかがえるというものである。
(正直、1回目は編集側のやる気は疑われるレベルの印象)

流れを軽くまとめると

・主宰からの挨拶‐説明
・ホワイトボードに参加者は名刺を貼る
 →机にはそれぞれの作品サンプルを置く(閲覧自由)
・紐の色を見分けて編集への交渉と参加者同士の交流開始
・編集との話が進めば別室で交渉
・編集側の全体説明会開始
・お菓子食べてジュース飲みながら談笑
・閉めの挨拶

これに加えて、希望者にはスクリーンに自分の作品を映しながらアピールすることもできた。
前回あった、ライターなどのトークショーは完全に省略。

以下、筆者ツイートから

〇 今日のイベント、正直書いてしまうと出版社側の参加が少なくやや物足りない印象があった。 自分の立ち位置的には第三者なので多かろうが少なかろうが関係ないのだが、仕事狙っている人には消化不良な部分もあったのではなかろうか。

〇 ただ、交流会という側面から覗いてみると面白い。 小説側からしても文フリには参加しないような人が多めで、そういう人たちの感覚や傾向が窺い知れた。(特になろうなどのWeb中心にやっている人たち) Web中心だと普段直に交流することが少なくなるので、こういう場は貴重とも捉えられる。

〇 今回から現れたのは、出版側の個別説明会。 ゲームブック関係の人が別室に興味ある人を集めて企画の説明をしていた。 ただ、自分は参加しなかったので詳細は書けない。

〇 個人的な要求は、後半ゆるくなった時間には椅子を持ち出して欲しい。 何時間も立っているのは辛い。

〇 次回、1月後半か2月にあるそうなので、興味がある人はどうぞ。 仕事に結びつくかは不明だけど、交流という意味でもおもしろい企画です。

〇 あと、 交流会 としての要求としては予め個々人のプロフィールが簡単にでも分かるようにしてくれれば。 一覧表が出ていれば後にも先にも便利。

〇 という話を、スタッフの岩上さんに話せばよかったか。

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総評
前回のイベントでは、ファミ通文庫などのレーベルも参加していたものの、今回は有名どこはほぼなし。全体的にも編集として参加している人が少なく、本気で仕事探していた人には物足りなかったのではなかろうか。
その代り、立ち上がったばかりの出版社から何人か参加していて、その方々は逆に本気度をうかがい知れた。立ち上がったばかりという点が気になるものの、本気度では1回目で消え去った編集とはまず間違いなく違うだろう。個別に説明会を開いていたのはこの方達だ。
出版社がうまく軌道に乗れば、このイベントから仕事に結び付けられる人も出てくるのではなかろうか。そういう意味でも、この出版社自体にも注目してみたい。

個人的には、いわゆる なろう系 の人たちを中心としたWeb系の物書きが多く参加しているのが印象的であった。文学フリマでもWebで発表している人は多いが、やはり主戦場は同人誌の人たちだ。そうではなく、Webのみでの活動をしている人たちと触れ合えたのは興味深い。まあ、だからといって特別何かが変わるわけでもないのだが。
新人書を受賞しているような作家も普通に混じっていたのも面白い。
デビュー済みの人とも交流できるという意味では<交流会>としての意義はあるのではないだろうか。
今回は、前回からの反省からか<交流会>という意味合いを強めていた印象はある。
聴いている人が少なかったトークショーを完全に省き、時間もやや短縮。
(前回は、編集側と交渉している間にトークショーが開催されていて、参加者はトークショーどころではなかった)
その代りに、交流会後はアフターも用意していた。(筆者参加せず)
そこで酒を交えながらより深い話をできた人もいるはずである。
どこにイベントの中心的要素を見出すかは重要である。
ただし、<交流会>を望んできている人がどれほどいたかは不明。
やはり、編集側との交渉を望んでいる人は多くいたはずであるから、次回はもっと編集側の人間の参加が望まれる。

あとは、このような交渉ごとに慣れていない人も多いと推測される。
誰か、事前に基本的心構えというか、流れや準備しておいた方がいいアイテムやセールストークなどをレクチャーしてくれればありがたいのではないだろうか。
経験者、フォーマット作成を望む。

営業経験者なら、スクリーンにパワポで作ったプレゼン資料風の映像を流しながらアピールしてもいいかもね。自分のイラストを採用することにより、御社にはこれだけの利益をもたらす、みたいな。
もしくは、その代役を誰かに依頼してみるとか。

長くなりそうなので、この辺で閉めよう。
他の参加者も、気が付いた点や要望は主宰者へアピールしておいた方がいい。
第3回もあるのだから、改善点として考慮されるかもしれない。
主宰の岩上さんも生もの声が貴重だという意味合いの言葉をおっしゃってたので。

2016年1月17日 (日)

作品仕上げて本出して……で、終わりなの?

何か停滞感を感じてならない。
何か手ごたえがなく、どこへ向けて発信しているのかが分からなくなる。
全体的に活気が失われつつある。

そんな不可解な感覚とジレンマで悩まされていないだろうか。
どこで何が?
そう、文学フリマでだ。

 

前回(第21回)の来場者
出店者・来場者あわせ約3,500人

前々回(第20回)の来場者
出店者・来場者あわせ約3,400人

第19回の来場者
出店者・来場者あわせ約3,800人

第18回の来場者
サークル参加者・一般来場者わせて3,500人

第17回来場者
総来場者数はおよそ3,400人

(全て公式HPより)

上記が全てを示す数字ではなかろうか。
悪くはない。しかし、御覧の通り横ばいが続いているのだ。
完全頭打ちである。

 

何も、OGDの話をしているわけでない。
OGDの話は、この記事では一旦は除外していただいても構わない。
文学フリマというイベントにおいて全体的にそう感じないだろうかという問題定義である。
そういう話を、前回の文学フリマ終わりで某氏と話していた。(この場合、主に東京であり、地方はほぼ除外していただいて構わない)

そして、そこで俎上に載せられたのが、ただ本を出して売っているだけじゃだめだよね、という話である。
この某氏とは、お互い文学フリマとは全く関係ない文脈にあるイベントを観に行く、もしくは直接参加していたりしている。もちろん、それはコミケなどの別同人誌即売会というレベルの話ではない。もっと多角的なイベントを観ているという話である。
そういうところで感じられるのが、『いるだけでも(見ているだけでも)楽しい』という要素なのだ。
つまり、会場でぶらりと目的なくさまよっているだけでも楽しめる空間。時には、一般参加した者までもがいつの間にかその空間の演者のように振る舞うことになっている。つまりは、参加型イベントそのものが持つ空間・空気。
それこそが大事なのではないか、ということだ。

いや、もちろん、文学フリマではお互いが精力出し合って創り上げてきた物語や、丹念に調べつくして出来上がった評論本などは、見ているだけでは楽しめないものだというのは当たり前の話である。読んでこそ、本当の価値が理解できるのには異論がない。読むことそのものが最大の目的だというのは十分に理解している。同人誌即売会の根底にある価値観というのは、買った本を 読んで 内容を十分に理解し楽しむことにある、というのには否定する気持ちはさらさらない。

しかし、即売会というレベルにおいては、もっと言うと即売会という概念を一時的に捨て、『イベント会場』という意味においては現状で楽しめる 場 と言えるのだろうか。
本を通してのやり取りだけに限界が見えていないだろうか。特に、この文字を中心とした同人誌というやつには。
そこに対して、最近色々と考えるようになってしまっている。
だからこそ、色々と変化を与える必要が出てきているのではなかろうか。
(あくまで『場・空間』に対しての定義であり、文学そのものへの疑問をやり玉にしているつもりはないので誤解の内容に)

話しが大分長くなってしまった。
本題はここからだ。

そこでだ、今後イベントにあたり集客を伸ばす意味においても、出展者側が色々と変化を与えていく必要が出てくると思われる。だからこそ、色々とこちらも模索してみた。
現状あるそのアイデアをここに記しておこうと考えている。これを叩き台にして、皆も議論を重ねていただき新たな展開につなげ、動きが活発になれば幸いである。
(事務局側は地方展開に力を注いでいる様子であり、どうも特別な仕掛けに力を注ぐ余力はないようなので、我々出展者側が工夫する必要があるのではなかろうか)

 

コンセプト

見せる体感する文章系同人誌即売会

商業分野でも小説を中心とする活字媒体の停滞は激しいものがあります。様々な手軽でさらりと消費できるコンテンツが溢れる時代において、地味で時間のかかる文章表現という媒体は敬遠される傾向が目立っています。
だからこそ、商業ではないある種特異な領域にある(無限ではないが大幅に自由である)同人誌界隈で挑戦的な試みを展開し、今までにない見せ方でもっと広い領域まで文章系同人誌の存在と面白味を知っていただきましょう。

手法一つで、我々はまだまだもっと幅広い読者を存分に楽しませる力は持っているはずです。その手法を、様々な関わり合いのある方々と考えていければ幸いです。

 

具体的手法アイデア

・展示方法の工夫

これは既に工夫している人の方が多いと思うが。
ブースの装飾が結構こだわっている人が多く、むしろシンプルな方が目立つような。
意識高い文フリ陣営だから、こちらで指摘する必要もないと思われる。
その本が持つ空気感をブース全体で表現していただければ、もっと面白くなるだろう。
通りかかる者を視覚的にも楽しませることをもっと意識していただければ。
物語の中で出てきた重要なアイテムなどを小物として置いておくのも面白い演出かもしれない
このへんに関しての演出方法は、もはや様々な人が色々な場所で触れているでしょうから。心がけましょうね、程度にしましょう。

 

・2ブース取得からの演出

これは2ブース取得のためその分料金のかさむ方法だが、演出力でかなりの注目ブースになるはず。
片側では本を置くスペース。片側では、例えば協力していただいたイラストレーターさんの原画を展示したり、作品に関連したオリジナルグッズも作って展示販売したりなど。
タブレットやノートPCで簡易的に映像で演出するのもありか。(直接音は出せないけど、ヘッドフォンを使うなどするのもありか?)
見せ方(魅せ方)はかなり広がるはず。それこそ、来場者がいて楽しい空間演出になるはず。
実演販売とまではいかないが、その場で作業しながら商品を提供していく場というのもありか。
この手の演出を1スペースでやりくりしようとすると限界もあるし、どうしてもごちゃついて何が主力のサークルなのかがぶれがちになってしまう。だからこそ、2スペース確保することにより広く使い余裕を持った見せ方をした方がいいのではないだろうか。

 

・合体配置による演出
似たような色合いのサークルさんと協力すると、その威力は計り知れなく増すだろう。
しかも、上記の2ブース取得を2サークルで行えば、4スペース分にもなる。
4スペースもの幅を使って販売・展示を展開していけば。しかも、更に同じ空気のサークルさんが同じことを行えば、その島全体の空気ががらりと変わるはず。
特に、イラストや写真中心の本を出しているサークル同士でやれば効果は絶大だろう。
そんな空間が会場の無数に浮き上がれば、それこそ即売会の知識がない人がふらっと訪れても楽しめる場になるはずである。
特に、文フリ会場は周囲に他の遊技場……いや、それどころか商業施設がない場所だ。ふらっと寄るには抵抗ある会場である。だからこその、ふらっと寄ってもいい演出が我々出展者側にも求められているのだ。

 

・売り子側の演出
これは、ちょっと限定的になるが。何分、過激なことをやるとイベント規定にも引っかかるし、そこに書かれていないことでも苦情が出やすい。
とはいえ、できることは幾らかある。
まず、仮装(もどき)。
意外と知られていないのが、簡易的な仮装ならばOKなのだ。コスプレが禁止の理由は、着替えスペース確保(おそらく、そこに関わる人員も)ができないからである。
つまり、着替えるまでもないような仮装ならばOKということだ。例えば、帽子、仮面(マスク)、メガネ(サングラス)、法被、マント、鉢巻、アクセサリーといった装飾類・小道具類。(ポイントは付け外しが容易にできること)

衣服も過激でなければ(家から着てこられるものならば)OKであり、和装で来るだけでも空気づくりの一つになるはず。あえてスーツで決めるのも、内容によっては演出になるのでは。
純文学島でなら、和服の人間がずらりと並ぶだけでも空気感ががらりと変わるはずだ。だから、例えば着物に狐面でも、ゴスロリ衣装にヴェネチアで見られるような仮面でも問題ないのである。(家から着てくれればね!)
端正な顔立ちのメガネ文学男子が和服でずらりと並んでいるゾーンが出現すれば……という面白い妄想も浮き上がってくるでしょ?

ダメなのは、どこかで着替えないといけないような衣装である。着替え必要はもちろん、たぶん、何か特定のキャラになりきるという空気感がダメなのではないだろうか(個人的主観)。
(なんで、アニメキャラの衣装を家から着こんで来るのはよしてね)
詳しくは公式HP参照で!

 

・他ジャンル(創作)とのコラボ
たとば、一番有り触れているのがイラストや漫画。
何分、視覚的演出力が絶大である。
そこにかぶせるようにして、上記のように展示をしてみるのもいいだろう。
他にも、書道家とのコラボなども面白い。
可能ならばその場で実演していただきたいところだが、さすがにそれは無理か。しかし、相性はかなりいいのではないだろうか。
音楽やっている人間ならば、テーマソングを作ってもらうのも面白い。これも会場で流すのは難しいが、イベント前後にネット上に上げておいて販促の一部として活用していけば。

 

いかがであっただろうか。

他にも、まだまだアイデアは出てくるはずだが、一旦ここらで締めておこう。
あくまでも、今回はたたき台である。これを元に演出に対する議論がどこかしらで持ち上がり、5月の文学フリマで実際に展開できたら提案者としては本当に幸いなことである。
いや、もちろん本当の幸はそこから更に大幅な来場者アップにつながることではあるが。
出展者全員が意識する必要はない。当然、お金と手間がかかることであるし、やる手間が惜しい人やそんなところに意識を持ち出すよりも作品に注ぎたいという人も多いだろう。
だが、1割程度のサークルが意識するだけでも空気は違ってくるはずだ。
今回の最大値は800スペース。その1割なのだから、80スペースでそのような空気が見られれば今までとは違う文学フリマの様相を見せることになるだろう。
是非とも検討していただきたい。

そして、OGDもそこに是非とも参加できれば。

ということで、最後に募集。
2016年5月1日開催予定の文学フリマにて協力してこれまでにないスペース演出をしていただける方を募集。
2スペース取得予定。できたらどこかと合体したい。
何かアイデアある人は、是非是非KKまで連絡を!!

2015年6月14日 (日)

商業がのっっったりとしているなら、同人が突き進んでやるしかないだろ?!

5月末日、唐突にやってきた高橋己詩からのDM。
それは、「おっす!」と馴れ馴れしく悟空気取りに挨拶してくる割には個人的には悩ましくも感じ取れる内容だった。
簡単に説明すると、創作家さんたちとの交流会であり、文学フリマなどの文章系同人誌即売会によく出ている人たち集めて、「参加してみてどうよ?」「今後、どうすんべ?」と議論し合う場を設けたそうだ。
意識低い系アラフォー男子のKKも、直近で本当に意識高い系で頭の切れる人たちとの交流があっただけにこの手の場へ出ることに引け目を感じているタイミングであっただけに躊躇いは生じたものの、なんだかんだでその会合に参加してきた。

会場は、渋谷駅すぐの「カフェ・ミヤマ」。そこのレンタル会議室。
参加者は途中参加も含めて9人。
年齢は20歳の現役大学生からアラフォーまで。たぶん、平均は30歳くらい(見た目判断)。男女比は男 6:3 女.。自分が一番文フリ古参になっていた。あとは、比較的参加歴が浅い人が多め。好きな作家は、ドフトエフスキーや舞城、町田康や恩田睦、更にはソローキンやヴィリエ・ド・リラダンなどの名前が上がっていた。わりかし難い読書家たちが集まっていたのかもしれない。
以下、そこで俎上に乗った議題の内、印象に残り特筆したくなったものをここに記しておこうと思う。

〇文学フリマ100都市構想
高橋己詩が切り出した話題。
そこからの、文学フリマ 荒川の土手。もしくは、文学フリマ 商店街
高橋己詩のホームである荒川でもという声から、KKの頭に思い起こされた「荒川フォークフェス」という単語。ご存知、荒川の土手で行われた手作り感覚の超小規模フォークフェスである。
つまり、荒川の土手でイベントをやれば面白いのでは? という、本当に思いつきをそのまま口にしてみたら、意外とみんな乗ってくる。
野外でのフリーマーケットなら幾らでも見かけるが、野外での同人誌即売会などはあったのだろうか? そういう意味では注目度も高く面白い試みと感じられるが。
問題は、もちろん天候に弱いこと。急な雨で中止になる可能性も。

文学フリマ 商店街は、神坂氏の発案。
その名の通り、商店街で即売会を開く。特定の建物のみでなく、空き店舗をうまく活用して商店街全体で開催。広場でイベントを開くのも面白い。
パン屋や雑貨屋の横に何気なく置いてもらうという試みもいいかも。そうすれば、商店街全体を巡れる仕組みにもなれるだろう。
街の公民館は安く借りれるという意見も。公民館が商店街すぐの距離なら、公民館を拠点にもっと幅広い試みができるのではないだろうか。

商店街の場合、個人的に興味深いのは、空き店舗活用。通常の即売会だと広い会場に机の半分を間借りしたスペースだが、商店街ならうまくいけば居抜きで実際のお店を丸ごと使えてまさにお店を経営している感覚になるのでは?

・上記二つでのポイントは、『文学フリマを知らなかった人間でもふらりと入ってくるという点』である。それまで即売会という存在を知らなかった、知っていても気負いしていけなかった人などでもふらっと向かえる。文学フリマの入場者伸び悩み問題に一石を投じてくれるのでは。
超文学フリマが失敗だった(なかったことにしたい)という意見も若干耳にするが、あれはあれでそれまでに交わらなかった客層との接点を持ついい機会であったとも感じている。特に、読者層が若いラノベ層にとっては本来は滅多にないチャンスだった。だからこそ、これらの構想は普段同人誌界隈と交わらないが読書はしている層に訴えかけるいい機会になるかもしれない。
また、100都市開催となると中にはこういう変則的開催方法もあっていいと思う。以前、文フリ代表と、「文学フリマ 鎌倉は面白い、寺でやれたらもっと面白い」というような内容の会話をしたことがある。こういうその土地ならではの開催方法も取り込めていけると、即売会として、また今後の同人誌の売り方としても幅が広がり興味深くなるのではないだろうか。

〇同人誌、ならびに小説そのものの流通形態改革

何の流れだったかは忘れたが、話は現状の商流に関して触れることに。それは、同人誌だけに関わらず、商業における販売経路や現状の売れている(とされる)作家さんの態度や動きなども含まれた。
皆、文芸同人誌の売れ行きに関しては抱えているものがある証拠でもある。

商業上で見られる現状の売り方で先細りしている文芸部門に先があるのかどうか。
こんなモノは幾らでも討論されて無数の答えが出尽くされているのだろうが。しかし、もう2000年代から話されている割には2015年現在で瞠目すべきアイデアが飛び出ていない印象も受けるのも事実。
会議では、完全に新たな商流を生み出した方がいいのではという意見も出ていた。

そもそも、文学フリマそのものが文芸商流のオルタナティブな場として設けられたのが起源。同人誌という自由を帯びているのだから、もっと実験的に大胆な売り方を見せていいのかもしれない。
本の作り方、実際に会場での展開の仕方・売り方、だけでなく、その前の宣伝方法から更に本を作る前の段階からの活動内容に至るまでもっと実験的に大胆に攻めてもいいのかもしれない。ネット社会・ソーシャル社会が主流と言われた昨今、気軽にお手軽に様々な取り組みがしやすくなったからこそ、我々は新しい動きを求められているのだと思う。文芸という伝統に霧のような安堵感に縋り付いているようでは、いつの間にかそのまま霧散してしまうかもしれないのだ。その幻影の安堵感から離れ、茨の実験をドンドンと繰り出さなければ。
是が非でも昔からのスタイルを貫きたいという方は仕方ない。しかし、変革は常にどの世界でも求められているのも事実ではある。
そんなことをKKは感じさせられた。

 

他にも、様々な議論が繰り出されたが、一部非公開だからこその意見も出ていたので、ここに記するのは控えておこう。
なにやら、次回の動きもあるようだ。
そして、このような動きはもっとさまざまな種類の人が色々な場所で開いてもいいと思う。
なにせ、我々に求められているのは大胆な実験なのだから。

さて、次はどのような議論になるだろうか。楽しみである。

2014年11月12日 (水)

史上最大! ぜんまい仕掛けの流星フェスティバル まとめ

つ2014年 秋 男一匹元気が出るディスコ Season3

「史上最大! ぜんまい仕掛けの流星フェスティバル」

情報をまとめます。

初売り
2014年11月23日(日)
コミティア110
スペース№ し57b

2014年11月24日(祝)
第19回文学フリマ
ウ-25 Fホール(2F)

追加公演
コミケにて委託販売決定!

1日目、西ぬ07b 『はろぅ、わぁるど!』 様にて委託販売します。

更に追加公演決定!!

次回は4月19日の文学フリマ金沢にて。
スペースナンバーは「い―33」になります。


価格 800円

Hyoshis_2_1
表紙担当は 黒井みつ豆 !

ポイント

・読者がお題を出して、作家が読者からのお題を元に創作。
 →読者が挑戦状を出し、作家がその挑戦に挑む
  その結果を実際の作品を読んで確かめる
・爽やかな青春とコミカルなドタバタ劇が織りなす学園文化祭
・新しい創作方法を生み出そうとする同人誌

作品サンプルとクロフネの解説

保スカ
(pixiv)
「オモテナシ朝顔」
OGD初のマンガ。
すごく穏やかな空気が流れていて、作中出てくる部長と同じくなんだか落ち着いてくる。
作品内の流れにメリハリが効いていて、読み心地が抜群。その穏やかで爽やかな空気によいしれるといい。
化学部部長の心境の変化に読者も応援してみたくなるかも。

湯浅祥司
「まぼろしの美少女を追え」
Season2に引き続き湯浅氏のコメディーが炸裂。
美少女コンテストを荒らしたまぼろしの美少女を追いかけ、文化祭を舞台にハチャメチャラブ(?)コメディーが展開する。
旅行記や乗り物だけが湯浅さんの領域じゃないことを表すには十分な作品。
前回見せた抜群のコメディー力は今回も健在。
次々と繰り出される(いい意味での)くだらなさは読んでいて飽きない。

笑町儲弓彌
「消された魔法」
某書店店長が書いたライトノベルだ!
普段は純文学であり、本屋に並ぶ本もまた難いものが多いだけに、そんな店長が書いたラノベというだけでも必読である。
予想外にラノベの空気が醸し出され脱帽。
店長の器用さがうかがい知れる一作。
魔法や召喚獣でのバトルモノが好きな方はどうぞ。

クロフネ3世 その1 その2
「文化祭の休日」
地方と都市との融合。地方の生き残りを模索した作品。
という大袈裟なテーマは置いておいて。
クロフネ作品には珍しい、恋愛要素が盛り込まれている。主体は、文化祭と地方のイベントを巡っての若さ溢れる青春モノ。

宮海 勝乃
「侵略する帰宅部たち」
お待ちかね。宮海さん、Season1以来の登場だ!
スピード感あふれるコメディーもの。普段のイメージはミステリーやSFのため、コメディーの印象は薄いものの、なかなかの達人。
某小説大賞にこだわらなければデビューしていてもおかしくないのではと個人的に思っている。
作中の帰宅部のごとく、我々読者の心理を侵略してくるほどのパワーを持った作品。

ニセ生物
「伝説の樹の下の下で」
もはや、男一匹元気が出るディスコには欠かせなくなった存在。シリーズ全3冊すべてを制覇中。
この男のコーナーを読まなければ、この同人誌を読み終えた内には入らない。同人誌の防波堤。ディスコの大巨人。
ある意味で、一番企画の趣旨にはまったコーナーを担当。同人誌でネタ投稿コーナーがあるのなんて他にどれだけあるだろうか?
ネタ投稿コーナーなだけに、サンプルが載せられないのは残念。
最後は笑って終えるのに限る。

(敬称略)


企画に関しての記事一覧 ↓

企画を動かすに当たり、どういう意気込みだったのか

この作品にあたっての募集要項
(↑企画内容を知りたい方はこちらをお読みいただければ)

読者からアイデアを募集した企画概要
(今回は、読者から作品の序盤プロットを募集する、読者参加型企画を実施)

お題一覧

お題割振りの結果

Ogd_sam

サークルカット協力 ぴすどり

2014年11月10日 (月)

怪しい隣人

Photo

イラスト るぅ(@ruu_bot)

双子のライオン堂 店長が出す同人誌「虹虹」に寄稿しました。

上記、るぅさんのイラスト(1部分です)と「ゆるキャラ・ぐれキャラ」「怪しい隣人」をテーマに小説を書きました。

11月24日開催の文学フリマで完全版をお楽しみください。

以下、サンプルです。

---------------------

カーサ乾。
近所の住人からは『アリ塚』と呼ばれているデザイナーズマンション。もちろん、悪い意味でアリ塚と呼ばれ、デザイナーズマンションと言っても、前衛的過ぎて、もはやおしゃれ空間ではなく魔空空間だ。歪に斜めへ伸びた最上階は、地域一の高さを誇り眺めは最高だが、部屋はその傾斜通りに造られ、床面積の割にはゆったりとできない。そんな場所に住めば、まっとうな人間でもその外観と同じくねじまがった性格に変貌してしまうに違いない。階ごとに天井の高さも違い、中には長身の人間なら頭をぶつけそうなほどに天井が低い階もある。外壁の赤黒い色も特徴的で、人によってはその色から『ドラキュラ城』と呼んでいる。もしかしたら、住人の数だけ二つ名があるのかもしれない。
 そこは、都心から一時間弱も離れた郊外の駅から、更に歩いて三十分はかかる辺境のマンションだ。バブル期あたりに建てられた築二十五年のマンション。バブル期は、都心の土地価格が信じられないほどに高騰し、平民達は自分の根城を求めて郊外へ郊外へと落武者のごとく離れていった。その頃は、こんな辺境の歪なマンションでもそれなりの家賃を取り、それでも住人で埋まっていた。バブル期というのは、それほど人を狂わせていたのかもしれない。狂ったバブルがこのマンションを建てたのだろうか。しかし、そんな頃は俺もまだ小学生であり関係ない。今じゃ、その外観と立地条件から家賃も落武者のごとく急激に下落し、信じられないくらい破格な値段と変貌した。だからこそ、俺のような人間でも住んでいられるのかも。けれど、空き部屋はあるし、住人達は何をしているのか分からないような奴ばかりだ。
 もう、何年このマンションに住んでいるだろうか。いや、思い出す必要もないだろう。出るつもりもないんだから。都心とか郊外なんて概念は俺にはない。雨を凌げる屋根があり、休めるための寝床がある。更には家にいながらにして人と関わっていられるパソコンがある。それだけで充分だ。あとは、俺のためにネット通販の商品を宅配してくれるお姉さんがいる。
 何を望むんだ? 何も望みはしない。

 俺は、いつものように昼ごろに起きるとさっそくパソコンを起動させ、カーサ乾の住人が集う独自のコミュニティサイトへアクセスした。ここは、塞ぎがちで交流が不足になりやすいマンション住人のために管理人が独自に開設したオリジナルのコミュニティサイトである。住人しかアクセスできず、住人同士がそれぞれにマンションで起きた出来事から個人的な愚痴まで幅広く書き込めるようにでき、それぞれに交流できるようになっている。
 さっと昨日からの流れを追っている。どうやら、『ゆるキャラ』が一番ホットな話題のようだ。どこもかしこもゆるキャラだらけの世の中になっていると、とある住人が嘆いている。しかし、そんな人間のアイコンもまた、ウサギと犬を掛け合わせたような謎の哺乳類を描いたイラストのアイコンである。何のキャラかは知らないが、そのアイコンで嘆く限りはどこか矛盾を感じるのだが。その意見に同調する人間達も、なぜか同じように謎の動物を描いたアイコンばかりだ。そういえば、最近はイラストのアイコンが増えた印象がある。このサイトのほうが、ゆるキャラ……というか、どぎついキャラブームじゃないか。
 そういう俺は、簡略化された点と線のアイコン。人が微笑んでいるようにも見えなくない、簡素なアイコン。この平凡さが、むしろこのアイコンの並びの中で浮いている。
 いや、これはゆるキャラではない。とある会社に敬意を払う意識があるからこそだ。そう、俺のライフラインと言っていいネット通販会社。

 チャイムが鳴った。
 誰がきたかは大体見当つく。というか、こんな俺のことを訪ねる奴なんて決まりきっている。
 俺は、急いで自分よりも少し大きめのサイズのパーカーを羽織り、フードで頭を覆う。
 しかし、すぐにはドアを開けない。まずはドアスコープを覗くんだ。
 魚眼レンズの先には、レンズのせいで歪みながらもその活発そうな短い髪と、躍動感ある大きな瞳が見える。いつも通りの彼女の姿がそこにある。もう肌寒い季節に入ってきたものの、彼女はいつも長袖の腕をまくっている。スポーツ経験者なのだろうか。それとも、この仕事で鍛えられたのだろうか。引き締まった二の腕。俺の荷物を運んでくれる腕。その腕の中に、今日も俺の荷物が包まれている。
 腕だけじゃ満足いかない。その挙動もまた、じっくりと観察するのだ。もうすっかりとこっちがすぐに出ないのが分かっているのか、今では平穏な表情を見せているが、最初の頃は少し困った表情も見せて楽しませてくれた。恐らく、このマンション自体に長居したくなかったのだろう。不安そうな表情を振り撒いていた。あれはいい表情だった。興奮した。
でも、いい。彼女の平然とした表情でも俺は満足だ。分厚い鉄のドア一枚を隔てて彼女と接していられる。この瞬間がたまらない。
 じっくりと彼女を観察した後、俺はゆっくりとドアを開ける。必要最低限の隙間だけだ。三十センチ程度だろうか。これ以上は無理。彼女は、その隙間に押し込むようにしてダンボールを突っ込んでくる。俺の領域に、彼女の華奢な手が侵入する瞬間。俺の鼓動も速くなる。
「ハンコ、ください」
 ぶっきらぼうな声だが、少し甲高く心地いい響き。俺はゆっくりと玄関脇に置いてあった小箱からハンコを取り出し、彼女が差し出した紙にハンコを押し付ける。その際、わざと少し彼女の指に触れるのだ。そう、これが人のぬくもりだ。暖かい。
 彼女は、そんなやり取りを淡々とこなすとすぐさま踵を返し立ち去っていった。
 本当に刹那的なやり取りなのだが、俺はこの瞬間に快楽を見出している。そう、これが人間なんだ。俺は彼女の指の感触を思い出し、パーカーの奥にある顔をにやつかせる。

 それから、俺は暇な午後の時間を潰すためにドアスコープを覗く。そうやって、時折通る住人を観察し、その変化を眺めながら時間を潰すのだ。エレベータから一番近い部屋のため、奥にある部屋へ向かう住人は複数いて、その住民達を観察するのだ。
 そういえば、最近隣人の佐伯さんを見かけないけど。何かあったのだろうか。
 あの人も、見た目は俺と同じ歳くらいだけど。異常に痩せて、棒のように細長い。目つきがうつろで、いつもどこを見つめているのか分からなく、ふらふらとさまよう様はゾンビのようだ。他の住人と同様、正体不明だ。引っ越した情報はコミュニティサイトにはない。引っ越せばコミュニティサイトのネタとして盛り上がるはず。住人の大きな動きは、サイトのいいネタになる。俺もさせてもらう。
 しかし、平日の午後なだけに人通りも殆どない。おかしな隣人達ばかりだから、昼夜逆転の生活で夜まで出てこない、不規則な生活を送る人間が多いのだろう。
 暇だ。
 そう感じたとき、変化は訪れた。
 何か大きく丸い物体がドアスコープの狭い視界を覆った。ほんの数秒の出来事だが、確かに何か大玉のような物体が横切った。物体の上には頭部と思わしき半円状の盛り上がりが見えた。その両サイドからは、伸びきった靴下のような耳らしき何かが垂れ下がっている。
 もっと驚くべきは、その物体の上に小学校低学年くらいの少女が乗っていること。ドアスコープ越しに一瞬目が合った。
 きぐるみ?
 俺は、自分が目撃した何かに戸惑い、混乱した。
 今のは……きぐるみ? いや、なんでこんなマンションに? じゃあ、ああいう生き物というのか? まさか、それこそ馬鹿げている。じゃあ、あの少女は何だ? きぐるみキャラだから戯れてるんじゃないのか? いやいや、だからなんでこのマンションで。
 自問自答を始めるが、すぐに答えが出るはずもない。動揺が激しくなるばかりだ。
 俺は、一旦ドアスコープから目を離しドアに耳を当てて外の音を窺う。もうドアスコープの視界からあの物体は消えている。それでも、まだすぐ近くにいるはずだ。何をしている? どこに行く? 少女は大丈夫なのか?
 ズズズと何かを引きずる音が聞こえている。恐らくは、あの物体が歩くときに足を地面に擦っているのだろう。見た目からして動きは鈍そうだが。その鈍さがまた不気味である。
 しばらくして、隣の家の扉が開く音がする。どうやら、隣室に入ったみたいだ。じゃあ、あれは隣の佐伯さん?
 知りたい。あの正体が知りたい。佐伯さんかどうか確かめたい。何よりも、あの少女が大丈夫なのだろうか。

文化祭の休日 サンプル其の2(クロフネ3世 作)

 文化祭の日が近づいてくるにつれて、愛未はとある不安にまとわりつかれ、日に日にその不安に心を侵食されつつある。それは、ダンスがうまく踊れないなんてちゃちなものじゃない。ダンスなら時間をかければ何とか仕上げてみせる自信はそれなりにあった。だが、愛未一人が努力してもどうにもならないことがあった。それが、愛未を日に日に悩ませるのである。
 同じクラスメイトの岡田巧太だ。巧太こそが、愛未を悩ませる張本人である。
 それは、恋心という分かりやすい単語で表現できるものではない。
 いや、正確に言えばそれも含まれる。だが、恋心をも凌駕する問題を巧太は抱えている。
 ダンスの練習にまったく参加しないのである。
 夏休み前から練習は徐々に始まっていたのだが、その頃から一度たりとも巧太は練習に参加していない。だからこそ、愛未は悩んでいる。いや、愛未だけでない。クラスの誰もが巧太の態度には問題視していた。担任の富井も、生徒達から巧太の話題を出されるとくしゃりと表情を潰して黙り込んでしまうのである。
 もちろん、今まで何度も巧太にはダンス練習へ参加するように忠告が入れられていた。文化祭実行委員長の斉田姫香も、半ば怒鳴るように参加するように詰め寄っていた。最後には奇声を上げるほどに必死になっていたのを愛未はよく覚えている。
 だが、それでも巧太は練習に参加しようとしない。
 しかも、この状況は去年から引き続きなのだ。
 去年、つまりは愛未や巧太が一年生のときも文化祭では踊りの練習が課せられ、巧太は練習に参加せず本番でも文化祭自体を放棄した。
 理由は愛未もよく分かっていない。
 聞いたところで
「文化祭って、祝日だろ?」
 とよく分からない返答が帰ってくるだけなのだ。もう何度もそのやり取りがなされていたため、一時は愛未も半ば諦め気味で巧太のそっけない態度を見つめていた。
 幸いなのは、まだ卒業生達が巧太の存在に気が付いていないことだ。最初からずっと姿を現していないから、巧太の存在はないものになっている。クラスメイトも誰も触れようとはしない。触れれば事態が必要以上に面倒になることは目に見えているからである。
 けれども、一度でも知れ渡ってしまえばどうなるだろうか。特に、あの船水先輩に知れてしまえば。強引な船水先輩の性格からして、絶対になんとしてでも参加させようとするに違いない。でも、巧太もかなり頑固なところがあるから。その二人が全面対決となると……。
 そう考えると、愛未は落ち着かなくなってしまう。船水先輩と巧太の対決は避けないといけない。文化祭は円満に終えたい。そして、あわよくば……。
 考えれば考えるほど、愛未の気持ちは複雑に糸が絡み合うかのようにややこしく変貌して行き、本人でも抑えようのないそれに変わっていくのである。
 とにかく、もう一度巧太にアタックしてみるか。
 愛未は、自分のベッドで寝転がりながら決意を固めると、上半身だけを起こしサイドテーブルに置いていたカバンを取り上げる。そして、カバンの端っこにぶら下げていた何本かあるキャラクターストラップの内一つをそっと掴むのだ。少し塗装が剥げたおにぎり型のキャラ人形。それを握っていると、どことなくだが心の底から滾ってくる気持ちを感じられるのだ。
「うん、これならいけるいける」

 その日最後の授業が終わり掃除も一通り終えると、残りは簡単なHRのみである。
 だが、愛未はこのHRを少し緊張した面持ちで迎えていた。
 本当は、昼休みには巧太に練習へ参加するようにもう一度忠告しようと構えていたのだが、なかなかタイミングが合わずにこの時間まで引っ張ってしまったのだ。残るは、HRが終了後のタイミングのみであるが、愛未はだからこそ緊張感を高めていた。
 なぜなら、全ては巧太のあだ名が語っている。

 十五時四十分の男

 それが巧太のあだ名である。巧太自身は気が付いていないが、クラスの大勢が彼のことを影でそう呼んでいる。
 十五時四十分といえば、最後のHRが終わる時間。その時間になるや否や、巧太は逃げるようにして帰宅してしまうのである。部活も委員会も入っていない。放課後、無意味にクラスメイトと世間話をすることもない。まるで学校に残っていることが罪だといわんばかりに颯爽と教室を後にしてしまう。
 だからこそ、愛未は緊張していた。声を掛けるタイミングが遅れてしまえば、巧太に隙を見せてしまえば易々と逃がすことになってしまうのだ。そうなれば、またモヤモヤとした気持ちを抱えながら夜を迎えなければならなくなる。こんな気持ちは、さっさと巧太に放り投げてしまいたい。
 時計の針は、既に十五時三十五分を過ぎていた。もう時間はない。
 富井先生が簡単に連絡事項を済ませる。
「他に何かあるか?」
 富井先生の問い掛けに誰もが黙り込む。
 富井先生、もう一度やる気のない目線を教室一帯に投げかける。
 刹那的に静まる教室。もちろん、巧太もじっとしている。
「よし、じゃあ解散。また明日」
 富井先生が締めの言葉を放った。
 その瞬間、巧太の体が弾かれるように反応する。競馬なら抜群のスタートダッシュだ。そのまま端に立てる。逃げ馬タイプの巧太には理想的な動きを決められたのだろう。
 流れるようにして机脇に下げていたカバンを掴み、必要最低限の小物をカバンに詰め込む。この間、一分弱。いや、三十秒とかかっていない。
 改めて愛未が動きを観察すると、その速さに圧倒される。何がここまで彼に速い動きをもたらしているのだろうか。
 いや、そんな疑問をもたげている暇はない。気づけば、巧太は既に教室を出るための一歩を踏み出していた。
 慌てて愛未は立ち上がり巧太の進路に飛び出す。あまりに慌てたために半ばタックルするかのように愛未と巧太は接触してしまった。巧太は少しよろめいた程度で済んだが、愛未は勢いに負けてすぐ側にいたクラスメイトにも派手にぶつかっていた。
「ごっ、ごめんね! 大丈夫?」
 慌てて愛未は頭を下げるが、それを横目にして巧太が教室を出ていこうとするものだから、更に慌てて愛未は声を上げる。
「ちょっ! ちょっと待った!」
「ちょっと待ったコールだ!」
 バブルを知った富井先生だけが反応したが、誰も富井先生のことなど見ていない。
 みんな、愛未と巧太の二人に視線を向けていた。
「なんだよ?」
「……なんでもねーよ」
「志村けんの方か!」
 また三十代の富井だけが反応し天を仰いたが、もはや独り言の領域になっていた。ネタが古いしいつものことなので気にする者はいない。
 愛未の一言を聞くと、巧太はすぐに踵を返して教室を出て行く。
 違う違う、そうじゃない。なんで私は否定する!
 自分で自分に怒りをぶつけながら愛未は後を追う。
 急いで廊下に出ると、まだ巧太はすぐそこにいた。
「待って!」
「……だから、何だよ?」
「ちょっと、練習は?」
 愛未の言葉は自然ときつくなっていた。
「あ? 用事あるから……」
 巧太は、少しだけ眉をゆがめながら返答した。戸惑いというよりは、面倒だと言いたげにも感じられる態度である。
「巧太も神代市民でしょ? 文化祭参加しないと」
「文化祭は祝日……いや、祝祭日だよ!」
「またそれ? どういう意味?」
「意味って、そのままだよ。文化祭は祝祭日なのさ。だから、俺はちゃんと俺なりの準備をこなしているんだ。お前達はお前達で文化祭やってればいいだろ」
 そこで、巧太はまた玄関に向かって歩き始める。
「ちょっと、本当にどういう意味? そんな態度、分からないよ? あんたの熱意、滾ってるの?」
 その愛未の一言に、巧太は振り向かずに手を振り上げて応える。
「俺はいつだって熱々に滾っているよ。出来立て焼きおにぎりみたいにさ!」
 その力強い後姿に、愛未は諦めとともにどうしようもない懐かしさを覚えて、その複雑な心境にただじっと佇んでいるしかなかった。

 放課後の自主練習は、どことなく剣呑とした空気が滲んでいた。その空気は、愛未自身が一番感じてるに違いない。なぜなら、その険悪な空気を作り出した人間の一人こそが愛未だからと自覚があるからだ。愛未が巧太に練習の誘いをかけ、皆の視線が集まる場所で失敗に終わったからこその重たい空気。巧太が練習に参加しないのは誰もがもはや常識としていたが、改めて巧太の傲慢とも思える態度を目の当たりにされてしまうと、必死になって練習すればするほど巧太への不満を募らせてしまうものだ。
 愛未は、そんな空気の中でただ黙々と動きのおさらいを一つ一つ確かめているしかなかった。
「あっ! ミスった!」
 誰かが振りを間違えて机を叩きながら悔しがる。先ほどからたびたび誰かが大きなミスをしてダンスが止まってしまい、なかなかうまくいかない。
「ちくしょう! 俺、家帰ったら親の手伝いがあるんだよな……練習しないで帰れる奴はいいよな」
 ミスった一人が愚痴をこぼした。誰もが頭の隅に抱えてはいたものの、誰もが口に出すのをはばかっていた。出してしまえば、この場の空気が崩壊するのはわかっていたからだ。
 しかし、今こうして一人の口から放たれてしまった。
「なんで巧太は許されるんだよ。都会経験者は違うってか? 田舎者は踊っていろってか?」
 他の人間からも不満の声が上がった。
「まったくだよ。いい加減にしろよな。どこで遊んでやがるんだよ」
 別のところからも声が上がる。それを聞いて、直接的な批判でもないのに愛未は申し訳なさそうに教室の端に引っ込んでしまう。
「ちゃうよ。巧太は違う文化祭の準備で忙しいんだよ」
 そんな重たい空気にも関わらずに、空気を読まない素っ頓狂な声が上がった。こんなときにこんな一言を放てるのは決まっている。桃しかいない。
 桃は、それこそ素っ頓狂に笑顔で文句をこぼしている男子生徒に話し掛けていた。
「阿部ちゃん、意味わかんなーい。阿部ちゃんの言うことは通訳が必要なんだな。違う文化祭って、日本語でなんていうんですか? サボりですか? エスケープですか?」
 一人があからさまにからかうようにしてとぼけた表情を作り、桃の前で両手を広げて桃の顔の前でひらひらさせた。馬鹿にする態度なのだが、それでも動じない、というよりも意味を理解できていないのか桃は笑顔のままでいる。
「違うぞ。日本語だ。あちし、日本語しか喋れないし」
 ああ、もう!
 桃のそんな態度を見て堪らずに愛未は桃に走り寄る。
「はーい、お邪魔しました。なんか変なこと言ってますけど、気にしないでくださいよ」
「おっ、保護者か? ちゃんと面倒見ろよ。これだから最近の若い母親は……」
 お前も同じ高校生だろ。
 という突っ込みは心の中だけにする。そもそも、母親じゃないし。
 愛未は、苦笑いのまま桃の背中を強引に押しながら、そのまま教室の外に退出した。
「なんだよ、桃はまだ巧太のこと言い終わってないぞ」
「はいはい、こういう時は一回引くの。あんたもいい加減に空気を読めるようになりなさいな」
 愛未の一言に、桃はあからさまに不満そうな表情を見せたが、この空気はそこで終わる。
「よーし、先生は空気を読んで、差し入れをここで持ち込んじゃおうかな」
 富井が陽気な足取りで愛未と桃の前を通り過ぎていく。手にはコンビニで買い込んだらしき大きく膨らんだ袋が下がっている。
「よし、みんなここでブレイクタイムだ! ハブアブレイク! ギブミーアブレイクは大橋巨泉だぞ! ここ、テストに出す……わけねーだろ!」
 クラス中の視線が富井の袋に集中する。もちろん、富井の発言は後半部分が無視される。
 飢えたワニが潜む川に生肉を投げ入れたかのごとく、富井はあっという間に生徒達に囲まれてしまう。
「さすがトミー! ギャグセンスはついていけないけど、こういうところはどこまでもついていくよ!」
「きゃっ! やっ、やめて……やさしく殺して……やさしく殺して……」
 次々と伸びる生徒達の手に富井はもみくちゃにされ、あっという間に袋の中身は殆どなくなった。まさに、飢えたワニのごとく、だ。
 収穫を得た生徒達は、自分の席だったり友達の机上にと腰掛けて手に入れた獲物たちを味わい出している。
 そこに、遅れた愛未と桃がゆっくりと教室内に入ってくる。
「あのー……私達にも」
「あちしにも、なんかくれ。腹減ったぞ!」
 二人が袋の中をそっと覗いてみる。
「まだ何か残っていたかな? 一応、人数分は買ったはずだから……あっ、おにぎりあるじゃん」
 富井は、袋の底に残っていたおにぎり二つを取り出して愛未と桃の二人に手渡した。
「おお! おにぎりだ!」
 受け取った桃はすぐさま封を開けおにぎりを頬張りだす。すぐに桃のおにぎりは体内へと引き込まれていきそうだ。
 それを見てなのか、愛未は自身のおにぎりを桃の前に突き出す。
「おお! いいのか?」
「いいよ。私いらないから。食べな」
「遠慮なくいただくぞ!」
 愛未の差し出したおにぎりを、桃は嬉々とした顔で受け取りVTRで再現するかのようにほぼ同じ動きでおにぎりを頬張り始めた。
 愛未の表情はどこか寂しさを感じられた。それだけに、富井はその表情に気が付くと話し掛けずにはいられない。
「なんだ、腹減ってないのか? それとも、シーチキンが気に入らないとか」
「ああ、そういうんじゃないんです。ただ……おにぎりは暖かくないとダメなんですよ」
「なんだ、それ? 意外と贅沢なんだな」
「あっ、ごめんなさい。私、厚かましいこと言ってますよね。人から貰っておいて、こんなこと」
 愛未は、そこで自分の発言の意味に気が付き頭を下げる。
「いやいや、気にしないで。今度からはちゃんと暖めてもらうか最初からあったかい食べ物買ってくるからさ」
「あっ、いや、そういうんでもなくて……」
 急にはっきりとしなくなった愛未の態度に、富井はいぶかしげな表情を浮かべる。
「ええ? じゃあ、なによ?」
「……いや、まあ……昔観たアニメで、そういうのがあったんです」
「あちし知ってる! 焼きおにぎり五郎丸でしょ! きたきたきた、滾ってきたー!」
 おにぎりを食べ終わったのか、桃が急に会話に割って入り、何やら叫ぶと体を大きく後ろに反らすポーズをとった。
「なんだ、そりゃ? 中邑真輔の真似か?」
「ご指摘の通りに桃がやってるのは半分入ってけど、そういうんじゃないです。子供向けですから、別にボマイェとかやらないですから。滾ってきたが口癖のキャラクターです。熱血漢という性格だから、いつも頭のおにぎりが熱々で湯気が出てるんですよ。私、そのキャラが好きで……」
「ははぁん。先生、平成のアニメは詳しくないけど、そういうの、わかるな。先生も、子供の頃そういうのあったよ。ロボダッチとかさ」
「昭和っ! そういうんじゃないんですよね……」
 愛未は、渋い表情で富井の分かりましたよといわんばかりに頷いている様を睨む。
 この人は、すぐに古いデータベースを参照しようとする。意識だけを昭和に置き忘れているんだ。だから、あだながトミー(副部長)なんだよな。
 愛未は、呆れた声を心の中だけで呟く。
「こう、もっと情熱的なところが惹かれるんですよ。ぐいぐい強引にいく感じで」
「ああ、岡田巧太のことね。なるほどなるほど」
「……え? いっ、いや、なんで巧太の名前がそこで?」
 目を丸くして驚く愛未。別に特定の人間の話をしているつもりではないのに。
 また、わかったぞといやらしい目をする富井が気持ち悪く見えて余計に不可解だ。
「お前、今日は放課後になるや否や岡田に慌てて話し掛けていたじゃんかよ。岡田って、変なところもあるけど今言ったみたいに強引で力強いとこあるじゃんか。まさに、滾ってる感じがモロに出てるしさ。興味あることに猪突猛進になるタイプだよ。そこがいいんだろ?」
 イヤァオ!
 愛未は心の中で思いっきりボマイェをぶちかましてやった。
 一番スゲェーのプロレスだって教えてやろうか?
 そんな気持ちを隠しながら、愛未は引きつった笑顔を浮かべて富井に切り返す。
「いや、焼きおにぎり五郎丸と巧太関係ないですし」
「関係あるぞ。巧太も愛未と同じの持ってるぞ。焼きおにぎり五郎丸のストラップ持ってるぞ」
 思わぬところから不意打ちを喰らう。見れば、桃が嬉しそうにして桃のカバンを持ってきていた。カバンの脇には、焼きおにぎり五郎丸のストラップが下がっている。
「なんで持ってくるのよ。もう、桃は黙ってて!」
 愛未は強引に桃から自分のカバンを奪って抱きかかえる。桃は反省する態度も見せずに走って教室を抜け出した。
「よーし、分かった!」
 そこで、富井はポンと手の平を打ち、そのまま突き出した。その言動もどことなく昭和らしさが見えた。
「お前は、今度の休みに駅前商店街のエンゼルという喫茶店に行ってみろ。そうだよ、そんなに滾りたいなら行ってみろ。責任は先生が持つ」
「え? いやっ、どういうこと?」
「岡田だよ。滾ってんだよ。今だって、みんなが見ていない場所でしっかりと燃え滾っているんだ。それこそ、その五郎丸のように」
「いやいや、だから、どういう意味ですか? 全然わかんない」
 愛未は、両手を広げて困った姿勢を見せる。
「いいから、休みになったら駅前商店街のエンゼル、な?」
 そこで、富井は一人満足そうな笑顔を愛未に見せた。
 愛未は、ますます不可解な話の展開に半分泣きそうな表情を作るしかなかった。



2014年11月 9日 (日)

文化祭の休日 サンプル-1

「なにそれ、違うって! もっと、昇竜拳だって船水先輩怒鳴ってたじゃんよ」
 七尾愛未は曲に合わせて力いっぱい飛び跳ねたつもりであったが、一緒に練習していたクラスメイトの胡桃屋沙紀が呆れたかのように半笑いで愛未の背後から忠告してきた。それを聞いて、愛未は少し疲れた表情を浮かべながらうんざりと自分の椅子にドカリと腰掛ける。どうしても、飛び跳ねるごとに忠告が入って全然練習が先へ進めない。確かに、愛未の飛び跳ね方も指摘されたとおりに小さすぎるのだが、胡桃屋の忠告の仕方がどうも気に入らずになかなか強いジャンプを意識し切れないでいるのだ。
 時計を一瞥すれば、時刻は既に十七時を少し過ぎたところだ。もう一時間以上は練習していることになる。
 愛未は、もう一度鼻で大きく息を吐き出すと、胡桃屋の顔を睨んでやる。
「だから、そもそもその昇竜拳が分からないのよ。なに、昇竜拳って?」
「知らないよ。船水先輩に聞いてよ。とにかくさ、愛未のジャンプは小さくて勢いが足りないのよ。こう、なんつーかさ、花火がはじけるような気持ちで飛び跳ねてくれない? じゃないと、私達とのリズムというか、親和性? 俺達の友情とグルーヴが世界を動かしていく? よく分かんないけど、見た目きれいじゃないのよ。じゃないと、また船水先輩怒鳴るでしょ」
 胡桃屋の言葉は、半分が船水の口調を真似たそれであり、どこかその話す態度もふてぶてしく女子高生らしさがない。それがまた愛未をイラつかせる。
 愛未は、その言葉にもう一度心の中で溜息を吐き出す。胡桃屋は、少し船水の発言に臆病になりすぎだ。船水は既にもう何年も前に愛未の高校を卒業している。卒業生というだけで現役の生徒達に絶対的な関係など微塵もない。だが、何故か船水やその他数名の卒業生達は、夏休み直前から学校に顔を見せるようになり、現役の生徒達に踊りの指導をするようになっていた。それは、今年に限ったことでない。去年の同じ時期にも卒業生の何人かが学校に現れて踊りの指導をしてくるようになった。そして、文化祭が終わると同時に彼らは消えていくのだ。

「神代中央高校の文化は現役生が継続・発展させ、卒業生が補助する。それが戦前からあるこの学校の伝統なんだ。伝説の継続こそが、俺達卒業生に課せられた使命なんだぞ。お前ら、それを胸に気合入れて練習しろ!」

 このような言葉はもう何度も愛未は耳にしている。頭の中で反響しそうで、先輩達が口を開けば耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。
 そう、全ては十月頭に控えた文化祭のせい。
 神代中央高校伝統のイベント『神代竜宮祭』
 鯛や平目の舞い踊り、というわけではないものの、愛未の通う神代中央高校ではもう何十年と、文化祭で竜宮の舞を踊ることが決められていた。そして、その指導に当たるのが歴代の卒業生なのである。その卒業生の一人に、愛未や胡桃屋が先ほどから口に出している船水先輩がいるのである。船水先輩は、最近仕事を辞めたばかりのためか、頻繁に練習へ顔を出しては現役生達を厳しく指導している。そのノリは、明らかに体育会系であり、上下関係を中心とした仲間内でのやり取りを重んじている。その過度な態度と船水先輩が掲げる理想像は、愛未にとってはただ鬱陶しいだけであった。
 だが、胡桃屋を中心とした他の連中はあまり気にしていない様子である。むしろ、先輩に積極的に話しかけ指導を貰い、関係をより厚いものへと構築しようとしているかのようだ。その態度が、愛未には不思議でならなかった。それでも、文化祭を拒否するわけにもいかず、踊り以外は自分の理想とする文化祭がしっかりと行われようとしている。つまり、踊りさえしっかりとこなせれば何の問題もないのだ。だからこそ、愛未はもう一度しっかりと飛べるようにと席から立ち上がり苦手な箇所へと再チャレンジしようとする。
 曲が盛り上がり、段々とジャンプするタイミングが近づいてくる。
 今だ!
 愛未が腰をかがめ、膝に力をためて一気に吐き出そうとしたその刹那
「昇竜拳!」
 飛び跳ねようとした瞬間に、愛未の背後から飛びつくようにして愛未よりも高く飛び跳ねてくる者がいた。
「てい!」
 更に、もはや飛び跳ねるのではなくただ体をぶつける者までも現れる。そのために、愛未の体はよろけて近くの机に突っ伏すかのように倒れこんだ。
「ちょっと、なによ!」
 愛未は、慌てて体勢を立て直しながら文句を上げる。
 そこには、一人の背が高くがっちりとした体格の男子と、小学生が紛れ込んできたのではと見間違うかのように小柄な女子が二人はしゃいでいた。
「俺、エクスカイザーのアラヤっす!」
 そう言って、背の高いお調子者の男子はその大きな体格をコマのように回転させながら教室中をぐるぐると回りだす。エクスカイザーといえば、最近高校生の間で流行っている、いわゆるイケメン揃いのダンスユニットなのだが、その高校生の姿はただの台風を題材にした下手くそなパントマイムにしか見えなかった。それでも、何人かの男子がその姿に「いいぞ!」と囃す声を掛けている。その光景に、愛未は今日何度目かの溜息を吐き出すしかなかった。
「九重、うぜーよ!」
 胡桃屋がその男子に向かって叫んでいたが、九重と呼ばれた男は調子に乗りすぎてやめる気配を見せなかった。
「よし、あちしはパズーだ! お前ら、全員地方のゆるキャラにして、地方財政を無駄にしてやる!」
 九重と一緒に愛未の練習を邪魔したもう一人の小柄な女子が、今度は教壇に飛び乗って叫んだ。両手を腰にやり、ない胸を堂々と突き出している様は力強いが、クラスメイトは皆その姿を一瞥してどうしたものかと困った様子である。都心の一部のみで流行っている超が付くほどのマニアックなアイドルユニットの名前を出して真似ているようだが、誰も元ネタなど知らずに空気が微妙なそれに変貌しつつあるのだ。
「ああ、もう分かったから。桃、机から降りろ。こっちへ来い」
 愛未だけが冷静になり、小柄な桃を教室の端に呼び出した。
 そして、そのまま強制的に廊下へと退出する。
 二人が廊下へ姿を消すと、また九重が調子に乗ったパフォーマンスを見せて男子達が変な盛り上がりを見せだすのだ。
 その空気を肌に感じ、更には状況を明らかに察していない桃の満面の笑顔を見て、愛未はその耐え切れない気持ちを思わず体の外へと思いっきり発射するんである。
「昇竜拳!」
「おお!」
 愛未の今までの中で一番綺麗なジャンプに、桃は純粋な驚きの声を上げるのだ。

消された魔法 サンプル

 一番下の妹が泣いている。
 うるさい。
 二番目の妹に何かを訴えているようだ。
 しかし、うるさい。
 階段を駆け上がってくる音が近づく。
 三番目の・・・いや、私に近づく。ボロい家に足音が響く。
「お姉ちゃんのばかぁ」
「あたしは、ばかじゃない」
「だってだってー」
「何があったのさ」
 一番下の妹は、泣くのを堪えながら、説明する。
「それで、そのアニメを消したのがあたしだってこと?」
 泣くのを堪えながら、一番下の妹が頷く。
 あたしは、椅子から勢いをつけて立ち上がる。
「それは、申し訳ない。でも、あんたそんなの簡単に処理できるでしょ」
 一番下の妹は、まだ少し泣いている。嗚咽を堪えながら、何か良いたそうに口をパクパクする。
「そうかそうか。まだなのか。あんたさ、いま何年生なのよ」
「ロク」
「六年生だったらさ、それくらいできるでしょ」
「まだ習ってないもん」
「習うとか習わないとかさ、そんなこと言ってたら生きていけないよ、本当」
 また泣き出しそうな顔をしたので、これ以上うるさくなると、あたしの人生に影響が出そうなので、問題を対処することにした。
「で、そのテープはどれ?」
 一番下の妹は、一瞬嬉しそうな表情を見せたが、今度は馬鹿にした風に口元を緩めて首を横に振った。
「何?」
「ブルーレイ」
 そう言って、円盤状のメディアをあたしの前に突き出した。
 こいつのこういうところが、本当に嫌いだ。それでも怒りを堪えて、あたしはポケットに入れてあったスプーンを取り出す。
「レドモニトモヨガクロ!」
「これでプリティームーン見れるの?」
あたしは、胸を張って、頷く。
 そう、あたしは魔法使いなのである。
 高校三年生で、今年受験生。家族構成は、父、母、妹二人に犬と猫のハーフの生き物一匹で生活しているごく普通の魔法使いなのである。
 しかし、あたしが受ける予定の大学の試験では魔法は使えないのである。これが本当に困った。けど、その大学に行きたいのだから仕方がない。もちろん、どうにか抜け道がないか、超調べたんだけど。魔法とかネットとか使って。まあ、要約すると「魔法を封印する魔法」をかけられるらしい。しかも、超上級魔法らしい。それを覆す魔法を習得するのは……無理。普通に勉強した方が良いのだ。
 そんな訳で、くそまじめに勉強している。が、なかなか集中できない。集中し始めると邪魔が入る。
 そう、また階段を駆け上る足音が聞こえる。
「お姉ちゃんのばかぁ」
「なんでよ、さっき直してあげたじゃん」
「これ来週のだよー」
「お、それは失礼」
 そういうこともたまにある。だって、消しちゃった録画を戻す魔法なんて、いまどき使わない。そんなのネットで探してダウンロードして見ればいい。
「もう先がわかっちゃったー」
「そもそもアニメの展開なんて、同じようなものだから、だいたいわかるでしょうが!」
 ついついイライラして怒鳴ってしまった。案の定、一番下の妹は、今にも泣きださんばかりの顔をしている。んーほっといても良いけど、母上に怒られるなぁ。
 面倒くさいけど、対処しよう。
「ごめんごめん。もういちど直してあげるね」
「さきわかっちゃんだよーつまんないよー」
「大丈夫大丈夫」
「レドモニトモブンゼ!」
 目の前から、一番下の妹が消える。
 そう、最初から元に戻したのである。
 ん、最初?どこが最初?ん、やばくない?ま、いっか……。

         ☆

 夏休みが明けて久しぶりの登校日。高校生活最後の夏を終えて、みんな何か変化あったかな、なんて思ったりしたけど、進学校なので大半の生徒が受験勉強だったはずだ。
「おはよーマミ」
「おはよう、玉須川」
玉須川は、あたしの幼馴染、腐れ縁と言った感じ。クラスが違うことはあっが、かれこれ十五年以上も一緒にいる。とても優秀で、性格も良い。悪いところは、目くらいか。それも顔つきではなくて、視力の方だ。
「マミちゃん、なんか太ったみたい」
「ゾスロ……、痛い痛い」
途中まで言いかけたところで、玉須川による蹴りを喰らう。そうそう、彼女は、魔法よりも手が先に出る。魔法使いらしくない。別に、魔法が苦手なこともない、むしろ得意な方で、県内でも一位か二位。大学進学志望って話だけど、魔法省に就職の話もあるらしい。玉須川は両親が早く亡くなり、いまは養子として育ててもらっているので、進学を悩んでいるらしい。進学するなら特待生で入って負担を減らすんだとか。出来すぎた子なのだ。
そういえば、玉須川の両親が亡くなったのはいつだったかな。ふと、そんなことを考えてい

た。
「あのさ、変な魔法ばかり覚えてないでさ、ちゃんと受験勉強しないとだめだよー」
「さっきのは適当だよーさすがに殺人魔法は、ないない」
そう口にした途端、同じ通学路を歩く学生たちからの視線が集まった。
さすがに「殺人魔法」はまずい。禁止魔術である。
禁止魔術、簡単に言えば規則違反の魔法である。
ロボット三原則よろしく、魔法三原則なるものがあたしが生まれるずっとずっと前に定められた。魔法学校に入学すると同時に教えらえる。いや、正確に言えば、生まれて初めて魔法を使うことになるその日に、魔法省長官から手紙が来る。

『マホウつかいのやくそく
1、    マホウつかいは、マホウでヒトにキガイをくわえてはならない。
2、    マホウつかいは、ナカマをタイセツにしなければならない。
3、    マホウつかいは、ジブンをマモらなければならない。
以上
       魔法省長官                 』

 懐かしい。懐かしすぎる。そうだ、あれはあたしが4歳の時だ。母が嬉しそうに、何度も何度も読み聞かせてくれた。父も嬉しそうに声を出して読んでいたっけ。当時は、最年少なんじゃないかと、町で少しだけ話題になったんだった。なんかすっかり忘れてた初めて魔法を使った日のこととか思い出してきた。
「もう、一人の世界に入ってないでよ。私も一緒に変な目で見られちゃったじゃん」
 バシバシと肩を叩きながら訴え続ける玉須川を横目に、あたしは思い出に浸っていた。
 懐かしい!懐かしい!懐かしい!初めての魔法!初めての発火!初めての飛行!初めての……。
 玉須川がまだ肩を叩き続けている。しょうがないので我に返ることにする。
駅から続く長い坂道を上りきると、学校が見えてくる。
学校校舎がそこに現れる。
箒に跨って登校するものもいない。
とんがり帽子をかぶったものもいない。
黒猫を連れているものもいない。
丸メガネでマフラーのものもいない。
大きなボロボロの本をもったものもいない。
断崖絶壁にそびえたってもいない。
それがあたしの通う魔法学校である。
校門をくぐると、約一か月ぶりの学校の香りを感じた。文化の香りなんて高尚なものではなくて、土埃や野外部活をする生徒の汗と熱気。自分がこの夏を過ごしたクーラーの効いた自室やクーラーの効きすぎた塾の教室とはまったく違う。生きている!と感じる香りだ。
少しずつ校舎に近づく。あたしはテンションが上がって、玉須川にくっついた。あたしの勢いに押されて、玉須川はよろよろと倒れそうになる。腕を引っ張って、倒れないよう支える。玉須川が怒ると思ったので瞬時に言い訳を考えていたけど、いつものような返事はなかった。笑っているような、泣いているような顔であたしを見つめる。ものすごく怒っているのだろうか、と考えてみたが、それほどのことをしたとは思えない。ではなぜ?
そうこうバタバタしながら、下駄箱に近づくにつれて、玉須川の身体は固くなっていくようだった。はてはて。
あと1mで自分の下駄箱というところで、玉須川は地面に座り込んでしまった。
あたしはさっきくっついた時、倒れそうになってどこかひねったりしたのかと思った。けど、どうやら様子がおかしい。
「大丈夫?」
反応がない。
「おーいおーい」
 反応がない。
 顔を近づけてみる
 何か言ってるようだけど、聞き取れない。小さい声、というか弱った声だ。
 周りは、あたしたちを避けるように、普通に通り過ぎて、靴から上履きに履き替える。
 友達は少ないかもしれないけど、この状況で誰も声をかけないなんて、なんかおかしい。
 ただ、いま周りのみんなに憤っていてもしかたがない。玉須川の肩を撫でる。
 少し震えてる。
「どうしたの」と耳元で優しく聞く。
すると、ゆっくりと腕を上げて、下駄箱を指した。丁度、玉須川の上履きのある位置。
あたしは下駄箱に近づく。
あたしは目を疑った。
上履きがあるべき場所に、バジリスク――ニワトリと蛇のハーフ獣で、頭はニワトリで尻尾が蛇の生き物――の死骸が置いてあった。
気が付くと、周りに人はいなかった。
二人だけだった。
チャイムの音が、校舎の隅々まで、鳴り響く。
これは、宣戦布告だ。

             ☆

 魔法学校にも保健室はある。なんでも魔法で治るわけではない。いや、上級魔術師になれば、治せないことはないけど、学校というところは魔法になるべく頼らないようにする場所なのだ。そういう常識だ。
「何があったのよ。なんでも話しなよ」
カーテンの奥で、布団をかぶった玉須川にあたしは言う。
 あの後、玉須川を背負って、下駄箱から保健室まで運んだ。
 保健の先生は留守だったので、勝手に中に入って、ベッドに寝かせて、あたしは少し硬いソファーに座って、あれについて考えていた。
 ちょっと前に、ずっと静かだったカーテンの向こうから、玉須川が微かに動く音が聞こえた。なので、声をかけてみたが、反応がない。んーだいぶダメージがあったみたいだ。
まあ、そりゃそうだ。
新学期そうそう、自分の下駄箱に、バジリスクの死骸。
たちの悪いイタズラ。いや、イタズラじゃ済まない。
 そんな怒りを抑えながら、玉須川に再度声をかけてみる。
「おーいおーい」
 声をかけながら、ベッドに近づく。カーテンを勢いよく開ける。
 玉須川は、ベッドに腰掛けながら、毛布を頭からかぶって、泣いていた。
 横に腰を下ろす。
 そして、そっと身体を撫でてあげる。
 しばらくそうしていると、落ち着いてきたようだった。
 あたしは、玉須川を撫でながら、保健室の窓から見える空を見ていた。雲一つない晴れ。少し気味が悪かった。
 落ち着いてきたようなので、表情を覗こうと、視線を向けると同時に、ゆっくりと話をはじめた。
「あのね、最初は気のせいだと思ったの」
 どうやら事の起こりは、夏休みの委員会総会まで戻るらしい。
 夏休みも半分が過ぎたころ、委員会総会は開かれた。
 生徒会を頂点に、各委員会に所属する生徒が登校しないといけない。
 玉須川は、生徒会長ではなく、図書委員長だ。二年生の終わりまで生徒会に所属していて、誰もが次期生徒会長は玉須川だと思っていたが、本人の意思によって三年生に進学した時、図書委員会に入った。最初は、委員長職も嫌がっていたのだけど、丸め込まれて、委員長に。いやいや、これらは今回の件に、ほとんど関係ない。
 最初の異変は、委員会総会の朝、起きた。
 下駄箱に、上履きがなかった。
 何人かの人に聞いたけど、誰も知らないと答えた。
 そして、スリッパで午前中過ごしていると、校内放送で、呼び出された。
 飼育小屋の中にあったという。
先生は玉須川が飼育小屋に入って忘れたんじゃないかと言った。
玉須川は、バジリスクが好きだった。なので、生き物係ではないけど、頻繁に飼育小屋に通っていた。
 それからも、何度か学校に登校する機会があった。
 図書室の本を全て棚からだして、状態や欠損などを調べる日。
 上履きの中に、ぬめりのある鱗が。
生き物係の代理で、バジリスクの様子をみる日。
上履きの中に、まだ生きている幼虫の入ったハチの巣が。
 魔法省への就職の件、そろそろ決めないかという先生に呼び出された日。
 上履きの中に、器用に結ばれた藁人形が。
 それでも玉須川は、ちょっとしたイタズラだと思って、事を大事にしないように、誰にもそれらのことを言わなかったのだ。
 それでも、今日のは一線を越えている。
 玉須川が大切にしていたバジリスクを。
 話を聞き終わると同時に、あたしは下駄箱に走った。
 思った通りだった。
 玉須川の下駄箱には、もうバジリスクの死骸はなかった。
 顔を近づけて匂いを嗅いでみる。微かに血の匂いがしたが、消毒したような匂いが勝った。誰かが片づけたのだ。一瞬幻覚を見せられたのかと思ったが、そうではない。これは、本当に起こっていることだった。
 今度は、玉須川を一人にしていることに気が付いて、慌てて保健室に戻った。
 保健室の扉は、出るとき開けたままだったはずなのに、閉まっていた。誰かいる。
 扉に、静かに近づく。耳を澄まして、中の様子を感じ取ろうと努力する。
 保健室の中から声が聞こえた。
「警告したのに」
 あたしは扉を静かに、ゆっくりと開ける。
「何度も警告したんだけど、なんで気が付かないのかしら」
 少し隙間ができた。そこに耳を入れる。
「黙っていては分からないわ」
 聞いたことのある声だった。
 凛々しくて、優しくて、品のある声。
「玉須川さん。あなたがいると迷惑なのよ」
 玉須川の声は聞こえてこない。もう少し扉を開ける。人影がカーテン越しに見えた。ベッドに腰掛けた玉須川に対面して立っている人影。長身で、とても姿勢が良い。
「邪魔なのよ、分かる?」
 玉須川が、カーテン越しにも震えているのがわかった。
 どうにかしないといけない。
 相手は誰?
 声は聴いたことあるけど、分からない。
 もう少し近づこうと、扉を身体一個分開けて、静かに部屋の中に入る。
 気が付かれないギリギリまで近づこうと、静かに音を立てないように、足を出す。
「あなたさえいなければ、私が魔法省に推薦でいけるのよ」
 そう、凛々しい声の主は言い放った。
その時、さっき少しだけ開けてあった窓から、風が入り込んできた。生暖かい夏の風が、二人の人影を投影していたピンク色のカーテンを揺らす。
そして再度、風が、今度はさっきよりも強めの風が、侵入してきた。
カーテンは大きなうねりを起こしながら、さも踊っているかのように激しく揺れた。
カーテンが持ち上がった。
そのとき、人影の主の横顔が見えた。はっきりと。
生徒会会長――卍乃継百合子――だった。
容姿端麗、成績優秀、まあ、絵に描いたような生徒会長像をなぞったようなつまらない存在。そしてこれも定番だが、地主の家系で、親族に議員やら偉いやつが多いという。
しかし、魔法学校では、それほど、目立たない存在だった。
それが卍乃継百合子だ。
彼女が、ここまで個性的だったとは知らなかった。教師たちの言いなりなんだとばかり思っていた。生徒会はそういう機関だった。生徒のためではなく教師のための組織。生徒同士を見張りあわせ、教師の負担を減らすための装置。それも演技だったのか。
 まだ、卍乃継はこちらに気が付いていない。話を続けようとした。
「あなたは」ここで役者が大切なセリフを言うかのように少しためる。
「親殺しのクズ野郎なのに。ずるいわ。」

           ☆

「大丈夫、マミちゃん。ごめんね、私のせいで」
「気にすんなし」
 あたしは腕の傷を舐めながら、笑って返事をした。そして続ける。
「私のせいで」
「気にすんなって。それよりどうするかなぁ。次の手を考えておかないと。相手が相手だし」
 沈黙。
保健室から移動して屋上に来ていた。
 鳥の鳴く声が聞こえる。
「まあ、なんとかなるっしょ」
 こうなった以上、仕方がない。
「でも、文魔祭での公開試験が」
 あ、すっかり忘れていた。文魔祭。一年に一度のお祭り。各クラス、各学年、各部活、各委員会が一年の成果を発表する場所でもある。そして、生徒個人で臨む公開試験。三年間で覚えた集大成を卒業前に披露する試験。
 この試験にはもうひとつ意味がある。内申である。
 進学するにしても、就職するにしても、この公開試験の内容が大きく影響する。
 あたしの場合もこの試験は大切なのだ。あたしが行きたい大学には、あたしの実力だと少し難しい。夏休み返上で、勉強はしたけど、やっぱり模試とかの結果をみてもこのまま勉強していって、スムーズに合格かと言えば、五分五分だろう。そうなると、その内申点が重要になってくる。少しでも下駄をはければ、それに越したことはない。
 けど……。
「マミちゃん、魔法、使える?」
 様子を伺うように、怖がるように、玉須川が聞いてきた。
「使えないみたい」
 あたしは、魔力を失った。
 魔法三原則を破ったから。

2014年11月 8日 (土)

まぼろしの美少女を追え サンプル(作・湯浅祥司)

 学校のあちこちで賑やかな声や音が響き、辺り一帯は食べ物のいい匂いに満たされている。
 今日は文化の日。俺の通っている私立河見(かわみ)高校では河見祭(かわみさい)――いわゆる文化祭が開催されていた。
 教室やグラウンドは軽食の模擬店やオバケ屋敷などの出し物に使われ、体育館は演劇部や軽音部などのステージへと様変わりしている。廊下や校門などは随所に飾り付けがされており、普段は退屈で面白味のない校内風景がこの日ばかりはどこも新鮮に映って見飽きることがなかった。
 もちろん、学校全体の雰囲気も大きく違う。
 いつもならクスッともしないような他愛もない会話で大笑いをする連中、意味もなくソワソワして落ち着かないヤツ、興味深げな顔をしながら廊下をうろうろ見て回る他校の生徒、学校見学にやってきたと思われる中学生――。
 河見祭に参加しているみんなの表情が活き活きとしていて、かなりテンションも高かった。
 俺もその空気に影響され、少し気分が高揚している感じだ。おかげで自宅を出る時は熱っぽくて頭痛もしていたのに、今はそれが気にならなくなっている。文字通り『病は気から』といったところだろう。
「――達川(たつかわ)っ!」

 廊下を歩いていた時のことだった。不意に後ろの方から俺のことを呼ぶ声が聞こえてくる。足を止めて振り向くと、そこには爽やかな笑みを浮かべて駆け寄ってくる長谷部有希(ルビ・はせべゆき)の姿があった。
 勝ち気な瞳に大きな丸い目。肌には張りがあって血色も良く、サラサラとしたセミショートの黒髪は風になびいている。制服の茶色いブレザーは、季節に関係なく袖を少し捲っているのがいつものスタイルだ。
 こいつとは中学が同じで、高校の三年間に至ってはずっとクラスが一緒という腐れ縁だった。
「達川ぁ、ちょっと頼まれごとをしてくんない?」
 長谷部は俺の目の前に立ち、上目遣いでこちらを見つめながら両手を顔の前で合わせる。

 …………。

 ……嫌な予感がした。つーか、嫌な予感しかしない。
 こいつがこういう態度を取るのは、決まってメンド臭くて厄介なことをさせられる時だからだ。
 となれば、選択肢はただひとつ――
「――俺は忙しい。じゃーな」
 素っ気なく言い捨て、長谷部に背を向けて逃走を図ろうとした。

 だが、長谷部はその行動を予測していたかのように先んじて動き、俺の肩をゴリラ並みの力で掴んでこちらの動きを抑え込んだ。
 そしてまるで『全てお見通しだよっ♪』とでも言わんばかりに、ニッコリと満足げに微笑む。
「どっこへ行っくのかなっ? 達川陽斗(はると)くぅん?」
「あ……いや……その……だ、だからこれから用事が――」
「へぇーっ? 用事ってなぁに? 帰宅部だから部の出し物に参加するってことはないよねぇ? 一緒に校内を見て回る彼女だっていないしぃ、クラスの模擬店には顔を出す気なんて更々ない。バイトもしてない。どうせ今だって、当てもなくブラブラしてたんじゃないのぉ?」
「う……」
 悔しいけど何もかもおっしゃる通りで、ぐうの音も出なかった。
 さすが付き合いが長いだけに、俺のことをよく知っている。事ここに至っては、下手な言い訳は通用しないだろう。
 だからといってダッシュで逃げようにも、不意を衝けない今の状態での成功率はほぼゼロパーセント。剣道部長をしている長谷部に、帰宅部の俺が運動能力で勝てるわけがない。
 もはやこれは白旗を揚げざるを得ないか……。
 観念した俺は、やれやれと肩を落として深い溜息をついた。
「……しょうがねぇな。話だけは聞いてやるよ」
「サンキュ! えっとね、達川には人捜しを手伝ってほしいんだ」
「人捜しって、誰を捜すんだ?」
「まぼろしの美少女だよッ!」
 長谷部の瞳の奥ではメラメラと炎が燃えていた。
「はぁっ? 誰だよ、それ?」
「達川は去年の後夜祭で行われたミスコンのこと、覚えてる?」
「あぁ、お前が優勝したってんだろ? 一年も前の話だってのに、未だにそれを自慢したいのか? ――はいはい、すごいすごい」
「そのわざとらしい棒読み、イラッとするんだけど……ッ!」
「細かいことは気にするな」
 俺がニヤッとすると、長谷部は呆れ返ったような顔をしながら嘆息を漏らした。そして小さく咳払いをしてから話を続ける。
「そのミスコンの決勝で出場を辞退した落合戸菜理(おちあいとなり)って子がいたでしょ? その子が一部の生徒の間でまぼろしの美少女って呼ばれてるんだよ」
「あっ、それを聞いて思い出した! 確かにいたなぁ、スゲェ可愛い子が! 純真無垢で清楚な感じがいかにもお嬢様って感じでさ、ぜひともお近付きになりたいもんだ」
「……っっ!」
 長谷部はなぜか俺のことを鋭い目つきで睨んだ。わずかに下唇も噛み締めている。
 もしかして自分以外の女子が褒められて悔しいんだろうか? それにしては不機嫌すぎるような気もするんだけど。
 ……まぁ、考えても分かるわけじゃないし、訊いても教えてくれないだろうから見て見ぬ振りをしておこう。
「で、俺がその落合戸菜理ってヤツを捜すとして、長谷部はそれでどうしたいんだ? まさか剣道場の裏へ連れ込んで、竹刀でボコボコにっ!?」
「するわけないでしょーがっ! むしろアンタをそうしてあげよっかっ?」
「じょ、冗談だって! 間に受けんなよ……」
 本気の殺意らしき気配を感じ、俺は思わず後ずさりをする。
「だったら茶化して話の腰を折らないで!」
「……はい」
「私は今年のミスコンでまぼろしの美少女とハッキリ白黒付けたいの。このままじゃ納得できないし。だから達川にはその女子を捜して、今年のミスコンへの出場を頼んでほしいんだよ」
「なんで河見祭の当日になってそんなことを言ってんだ? その子に事前に頼んでおけばよかったのに」
「それができるなら、最初からそうしてるよ……」
 長谷部は視線を落とし、苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
「どういうことだ?」
「去年の河見祭の翌日、彼女になんで辞退したのか理由が訊きたくて、名簿でクラスを調べたんだ。もしかしたら、出場を辞退しろって誰かから圧力がかかったのかもしれないでしょ? 過去のミスコンでは、そういうことがあったみたいだし。そんな卑怯なことがあったとしたら、私は絶対に許せないから――」
 自然と握られていた長谷部の拳には力が入っていた。
 曲がったことが大嫌いで、義に反していると思ったら相手が誰であろうと正そうとする。そのせいで敵を作ることも多いけど、だからこそ慕っているヤツも多い。
 俺も長谷部のそういう性格、嫌いじゃない。
「――だけど落合戸菜理って名前の生徒、名簿には載ってなかったんだよ。丁寧に何度も確認したから、見落としはないと思う」
「それは興味深い事実だな。ということは、偽名で参加登録をしてたってことか? ――いや、待てよ? 他校の生徒がうちの生徒だと身分を偽っていたってことも考えられるか……」
 河見高校は周辺地域で最も生徒数の多いマンモス校なので、同学年であっても顔を知らないヤツなんてザラにいる。
 だからミスコンへの参加登録時に偽名を使ってもすぐにはバレないだろうし、うちの制服さえ着ていれば他校の生徒であっても紛れ込むことができるかもしれない。
 だが、そんな感じで色々と考え込んでいた俺に対し、長谷部は微苦笑を浮かべる。
「他校の生徒って可能性はないよ。まぼろしの美少女がうちの一年生――つまり現二年生だってことは、参加者登録を担当していたミスコンの実行委員長に確認したから。でもプライバシーの保護を理由に、それ以上のことは最後まで教えてくれなかったんだ。その人は今や卒業しちゃってて、行方を知らないし」
「じゃ、打つ手なしじゃん」
「私もそう思って諦めてたんだけど、今年の河見祭でまぼろしの美少女を見かけたって噂を聞いたんだよ。それも結構な数の目撃情報があるみたいでさ」
「ふーん……そうなのか……」
「だからお願いっ! 捜すのを手伝って! みんな忙しくて、達川のほかに頼める人がいないんだよ! 私も剣道部のクレープ屋が落ち着いたら捜すからさ!」
 額の前で手を合わせ、頭を下げる長谷部。その真剣な雰囲気から本気度の高さが伝わってくる。
 確かに俺たちは三年だから、決着をつけるなら今年のミスコンが最後のチャンスだもんな。それにここまで聞いた上で断わるのも気が退けるし、手伝ってやるか……。
「よし、引き受けた。ただ、結果はあんまり期待すんなよ?」
「やったぁ! ありがとっ、達川!」
 長谷部は満面に笑みを浮かべると、両手で俺の右手を握り、その場でピョンピョンと飛び跳ねた。
 握られている手に伝わってくる熱い体温と、柔らかい中にもマメで所々が硬くなった手のひらの感触。そしてなびいた髪からはシャンプーのいい匂いが漂ってくる。
「あ、報酬は唐揚げ弁当でいいよね? 達川って唐揚げが大好物だったでしょ? 河見祭の振替休日明けに用意するからさ」
 唐揚げ弁当というのは、購買部の人気メニューのひとつだ。しかも一日の入荷数が少なく、いつもすぐに売り切れてしまってなかなかお目に掛かることはできない。
 おそらく長谷部は部長権限を発動して、剣道部員の誰かにゲットさせようということなのだろう。
 報酬なんて期待してなかったけど、長谷部から言い出したことだし断わる理由もない。だから俺はありがたくその厚意を受け入れさせてもらうことにしたのだった。

 校舎三階の一室。ここでは写真部が写真展を開いていた。
 来場しているのは、生徒の保護者らしきお年寄りがひとりだけ。賑やかな河見祭の中にあって、ここだけは異様なくらいに静まり返っている。
 展示されているのは無難な風景写真や人物写真といった地味なものばかりなので、興味を示す生徒が少ないのだろう。アイドル写真やネタ写真なんかがあれば、もう少し状況も違っているんだろうけどな。
「おーい、淀川(よどがわ)はいるかー?」
 俺は展示スペースの裏に設置されている写真部員用の控えスペースに向かって声をかけた。すると奥から太い黒縁メガネの男がユラリと気怠そうに現れる。
 ――写真部長の淀川智仁(ともひと)。
 やや鋭さのある目と通った顔立ち、クールな雰囲気が漂っていて清潔感もある。外見だけなら女子に人気があってもおかしくない風貌だ。
 でもカメラヲタクということや教室でも堂々とグラビア写真集を眺めてニヤニヤするといった残念な趣向が災いして、好感度がなかなか突き抜けていかない。
 俺と淀川は一年の時に知り合って以来、今でもよく遊ぶ悪友のひとりだった。
「おぉ、達川か。何か用か? まさかうちの写真展を見にきた――ってことはないよな?」
「とある写真が入り用になったもんでな。買いにきたんだよ」
 その言葉を聞くなり、淀川の瞳がキラッと輝く。
「おおっ!? それはそれはっ! で、誰のどんな写真が欲しいんだっ?」
 淀川は身を乗り出し、怪しく口元を緩めながら興味津々で俺の返答を待っている。
 ――こいつは校内や行事などで自身や部員が撮影した人物写真を生徒たちに販売するという商売をしていた。
 大抵のニーズは密かに好意を寄せる相手の写真が欲しいといったものだが、そこは買い手が思春期真っ只中の高校生。中にはエッチな写真のニーズもあって、そういうものも取り揃えているらしい。
 もちろん学校は何も知らない。淀川が認めた『仲買人』しか写真を買うことができないシステムにして、取引の秘密を守っているからだ。仲買人は風紀委員や教員などによる摘発のリスクを負う分、中間マージンを得られたり淀川コレクションと呼ばれる極秘写真をもらえたりといったメリットを享受している。
 ただし、俺は淀川の悪友ということで直接取引が認められている、数少ない人間のひとりだった。買うのは今回が初めてだけど……。
「去年の後夜祭のミスコンに現れた、まぼろしの美少女の写真が欲しいんだ。お前なら持ってるだろ?」
「ほほぉ、なかなかレアな写真をご所望で。もちろん持ってるさ。俺の商品ラインナップに抜かりはないよ。ちょっと待ってくれ」
 淀川は控えスペースの奥からタブレット端末を持ってくると、ディスプレイを指で操作して画像データを検索していった。
 そして程なくその中からひとつのデータを選択し、拡大表示させて俺に見せる。
「ほら、この子だろ?」
 まさにそれはまぼろしの美少女の写真だった。
 色白の肌に整った目顔、ストレートの艶々としたロングの黒髪。純真無垢な笑顔には思わず見とれてしまうほどだ。
 こうして間近から撮影された写真をじっくり見てみると、いい意味で印象が違う。ミスコンはステージから遠く離れた場所で見ていたんだけど、その時と比べて数倍は可愛く感じられる。
 ――それにしても、さすが淀川だ。
 ピントや構図、コントラスト、最高の一瞬を切り取る絶妙のシャッタータイミングなど、撮影の腕が確かなのは認めざるを得ない。写真部長という肩書きは伊達じゃないってことだな。
「彼女は需要が高い割に撮影された写真がほとんどなくてさ、だからちょっと値が張るんだ。サービス判プリントが千円ね」
「ちょっ! 写真が一枚千円もするのかよっ? お前、足元を見やがって!」
「それは心外だな。通常小売価格は千五百円なんだぞ? でもお前は友達だからサービスしてやったってのに……」
 淀川は口を尖らせているが、今の言葉が本当なのかどうかは別の話だ。
 千五百円が千円になったという部分だけ聞けば、確かに安く感じる。でも冷静に考えれば、写真が一枚千円なんて明らかに高いし、普段の価格が千五百円であるという証拠だってない。
 なにより俺は以前、淀川から写真を買ったという友達から一枚三百円だったという話を聞いたことがあるのだ。だからそのつもりでいたのに、まさかその三倍以上の値段を吹っかけてくるとは想定外だった。
 これでは長谷部から報酬として唐揚げ弁当を受け取ったとしても完全に赤字だ。だからといって写真なしで人捜しをするのは厳しいものがある。
 やはり買わざるを得ないか……。
 無意識のうちに俺は溜息を漏らしていた。そして白い眼で淀川を見る。
「あのなぁ、お前の写真は価格設定が高すぎ……。もう少し負けろよ……」
「はっはっは! 分かってるって! ほかならぬ達川の頼みだ、五百円にしておいてやるよ。ちなみに白状するけど、通常小売価格が千五百円ってのは駆け引きのためのハッタリだ。でもその写真、普段はホントに千円で売ってるんだぜ?」
「そんな値段をつけてて売れるのかよ?」
「俺のところへ来るヤツのほとんどは買うよ。もっと高値がついている写真だって、当たり前のように取引してる。考えてもみろ、お望みの相手の写真が欲しいけど自分の力じゃ手に入らないからこそ、なりふり構わず俺みたいなクズを頼るわけだろ?」
 淀川は得意気な顔をしながら同意を求めるような目を向けてくる。
「クズって自覚はあるんだな、お前……」
「当然! そうじゃなきゃこんな商売はやってられないって。で、その写真、買うんだろ?」
「あぁ、買うよ。お前の言うように、ほかに当てはないからな」
 俺はポケットから財布を取り出し、中に入っていた五百円玉を一枚掴んで淀川へ手渡した。
「毎度ありーっ!」
 ホクホク顔になった淀川は、鼻唄を歌いながら写真をプリントしに写真部室へ向かうのだった。

 グラウンドの西側では、運動系の部が主に軽食の模擬店を出店していた。どこも大きな声で威勢よく呼び込みをしており、その活気に誘われて人もたくさん集まってくる。間違いなく河見祭で一番賑やかなエリアだ。
 そこに着いた俺は、知り合いのいる模擬店を中心にまぼろしの美少女について聞き込みをしていった。もちろん、移動中はすれ違う女子の顔を注意深く確認することも忘れない。
 そしてバスケ部のおでん屋で聞き込みを終え、陸上部のポップコーン屋へ向かって歩いている時のことだった。
「あっ、達川先輩!」
 正面からやってきたそいつは、俺の姿に気付くや否や爽やかな笑みを浮かべてこちらへ駆け寄ってきた。
 中野望(なかののぞみ)。うちの高校の二年生で、柔道部に所属している男子だ。
 ただ、中性的な顔立ちと百六十センチメートルに満たない身長、撫で肩で細い体格などから遠目には女子にも見える。
 俺たちが知り合ったのは去年の春で、きっかけは河見駅前で他校の不良たちにカツアゲされそうになっている中野を俺が助けたことだった。それ以来、何かと交流がある。
「よぉ! 楽しんでるか?」
「いえ、午前中は柔道部が出店している焼きそば屋で店番をしてまして。やっと交代になって、これから見て回るところなんです」
「そうだったのか。それはお疲れさん。――あっ、そうだ。中野はこの写真の子を見たことはないか? わけがあって捜してるんだ」
 俺は悪徳商人の淀川から購入した写真を中野に見せた。
 すると直後、中野は大きく息を呑んで目を丸くする。
「こ、これはっ?」
「去年の後夜祭のミスコンに出場した、まぼろしの美少女だ。今年の河見祭で彼女を目撃したってヤツが結構いるらしいんだよ」
「……そ……そうなんですか? へぇ……」
 中野の声は微かに震えていた。なんとなく上の空な感じで、ボーッとしている。
 ひょっとすると、まぼろしの美少女に一目惚れでもしたのだろうか? 確かにそれだけ可愛い子であることには違いないけど。
「――心当たりはあるか?」
 その問いかけに中野はハッとすると、気を取り直すように小さく咳払いをする。
「えっと、残念ながら僕は見ていません。少なくとも柔道部が模擬店を出している近辺には現れていないですね」
「そっか、サンキュ。……だとすると、グラウンド東側と校舎内を探した方が良さそうだな」
「達川先輩、どうしてその人を捜しているんです? もう少し詳しい話をお訊きしてもよろしいですか?」
「あぁ、実はな――」
 俺は長谷部に捜索を頼まれたことやその理由、ここまでの調査結果などを掻い摘んで説明した。もちろん写真の入手ルートに関しては、うまく誤魔化したけど……。
「――というわけだ」
「そうだったんですか……」
 終始神妙な面持ちで訊いていた中野は、納得したように小さく頷く。
「じゃ、俺はそろそろ行くよ」
「あのっ! 達川先輩っ!」
 俺がその場を立ち去ろうとした瞬間、中野は真っ直ぐこちらを見つめてきた。その凛々しい瞳には何かを決意したかのような意志の光が灯り、一点の曇りもない澄んだ輝きを放っている。
「うん? どした?」
「僕も一緒に行っていいですか? ひとりで会場を見て回るのも寂しいなぁって思っていたところだったんです。それともお邪魔……ですか……?」
「いや、別に構わないけど。お前さえそれでいいんならな」
「ありがとうございますっ!」
 中野は嬉しそうな顔をすると、俺に向かって深々と頭を下げた。
 そこまで感謝されるようなことでもないと思うんだけどな……。

2014年11月 2日 (日)

男一匹元気が出るディスコ Season3 表紙公開!

男一匹元気が出るディスコ Season3
「史上最大! ぜんまい仕掛けの流星フェスティバル」
表紙担当者発表と表紙を公開します!

Season3 の表紙担当者は

黒井みつ豆 様!
【As公式研究所】

表紙担当者 選出理由

今回のポイントは、

・オリジナルが描ける
・美麗で教科書的な絵よりも、個性重視。とにかく絵に独特な雰囲気と世界観を持っている
・色使い(同人誌のイメージ的に、カラフルな雰囲気を醸し出せそうな人)
・意欲的
・(おまけ)既に会ったことがある人

となります。
特に、個性重視の部分。
既にSeason1・2をご購入いただいた方は分かるでしょうが、この企画は個性的な作品が多いです。過去2回の表紙も非常に個性的でした。
オリジナルの感性が全面に出ている方に是非ともお願いしたく、その結果、黒井様にお願いすることになりました。

 

そして、運よく、先方には快く承っていただきました。
それを受け、こちら側は下記のようにイラストを依頼。

〇作品テーマ
「伝説の文化祭」

〇本のタイトル

「史上最大! ぜんまい仕掛けの流星フェスティバル」

〇作品イメージ
「文化祭」と本のタイトルをテーマにして描いていただけますでしょうか。
文化祭のイメージは作者の方にお任せします。現実的な文化祭はもちろん、独自の世界観から導き出した架空の文化祭でも構いません。
本そのものが明るい内容を想定しています。表紙もまた、全体的に明るい色合いでお願いできますでしょうか。

その他、イラストのイメージを数値化して提示。
結果、出来上がった作品が……

ドロドロドロ……

 

 

 

Hyoshis_2_1  

はい、ドッスン!

こちらになりました!!

素晴らしい!

見事に色鮮やかで、Season3の他作品とシンクロした賑やかさと文化祭ならではのパーティー感が溢れています。絵から、その文化祭の盛り上がりがうかがい知れますね。
ここまで本の意図を汲みしていただけるとは、本当にありがたいです。
こちらの提示した依頼を汲み取り、世界を想像し、構築していく。こうした作品を通して作家のすごさを実感できます。
脱帽ですね。

さて、こちらの本が並ぶのは……??

そうです、まずは11月23日のコミティア110から!

もうすぐです。

期待してお待ちください。

 

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