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2014年11月 8日 (土)

まぼろしの美少女を追え サンプル(作・湯浅祥司)

 学校のあちこちで賑やかな声や音が響き、辺り一帯は食べ物のいい匂いに満たされている。
 今日は文化の日。俺の通っている私立河見(かわみ)高校では河見祭(かわみさい)――いわゆる文化祭が開催されていた。
 教室やグラウンドは軽食の模擬店やオバケ屋敷などの出し物に使われ、体育館は演劇部や軽音部などのステージへと様変わりしている。廊下や校門などは随所に飾り付けがされており、普段は退屈で面白味のない校内風景がこの日ばかりはどこも新鮮に映って見飽きることがなかった。
 もちろん、学校全体の雰囲気も大きく違う。
 いつもならクスッともしないような他愛もない会話で大笑いをする連中、意味もなくソワソワして落ち着かないヤツ、興味深げな顔をしながら廊下をうろうろ見て回る他校の生徒、学校見学にやってきたと思われる中学生――。
 河見祭に参加しているみんなの表情が活き活きとしていて、かなりテンションも高かった。
 俺もその空気に影響され、少し気分が高揚している感じだ。おかげで自宅を出る時は熱っぽくて頭痛もしていたのに、今はそれが気にならなくなっている。文字通り『病は気から』といったところだろう。
「――達川(たつかわ)っ!」

 廊下を歩いていた時のことだった。不意に後ろの方から俺のことを呼ぶ声が聞こえてくる。足を止めて振り向くと、そこには爽やかな笑みを浮かべて駆け寄ってくる長谷部有希(ルビ・はせべゆき)の姿があった。
 勝ち気な瞳に大きな丸い目。肌には張りがあって血色も良く、サラサラとしたセミショートの黒髪は風になびいている。制服の茶色いブレザーは、季節に関係なく袖を少し捲っているのがいつものスタイルだ。
 こいつとは中学が同じで、高校の三年間に至ってはずっとクラスが一緒という腐れ縁だった。
「達川ぁ、ちょっと頼まれごとをしてくんない?」
 長谷部は俺の目の前に立ち、上目遣いでこちらを見つめながら両手を顔の前で合わせる。

 …………。

 ……嫌な予感がした。つーか、嫌な予感しかしない。
 こいつがこういう態度を取るのは、決まってメンド臭くて厄介なことをさせられる時だからだ。
 となれば、選択肢はただひとつ――
「――俺は忙しい。じゃーな」
 素っ気なく言い捨て、長谷部に背を向けて逃走を図ろうとした。

 だが、長谷部はその行動を予測していたかのように先んじて動き、俺の肩をゴリラ並みの力で掴んでこちらの動きを抑え込んだ。
 そしてまるで『全てお見通しだよっ♪』とでも言わんばかりに、ニッコリと満足げに微笑む。
「どっこへ行っくのかなっ? 達川陽斗(はると)くぅん?」
「あ……いや……その……だ、だからこれから用事が――」
「へぇーっ? 用事ってなぁに? 帰宅部だから部の出し物に参加するってことはないよねぇ? 一緒に校内を見て回る彼女だっていないしぃ、クラスの模擬店には顔を出す気なんて更々ない。バイトもしてない。どうせ今だって、当てもなくブラブラしてたんじゃないのぉ?」
「う……」
 悔しいけど何もかもおっしゃる通りで、ぐうの音も出なかった。
 さすが付き合いが長いだけに、俺のことをよく知っている。事ここに至っては、下手な言い訳は通用しないだろう。
 だからといってダッシュで逃げようにも、不意を衝けない今の状態での成功率はほぼゼロパーセント。剣道部長をしている長谷部に、帰宅部の俺が運動能力で勝てるわけがない。
 もはやこれは白旗を揚げざるを得ないか……。
 観念した俺は、やれやれと肩を落として深い溜息をついた。
「……しょうがねぇな。話だけは聞いてやるよ」
「サンキュ! えっとね、達川には人捜しを手伝ってほしいんだ」
「人捜しって、誰を捜すんだ?」
「まぼろしの美少女だよッ!」
 長谷部の瞳の奥ではメラメラと炎が燃えていた。
「はぁっ? 誰だよ、それ?」
「達川は去年の後夜祭で行われたミスコンのこと、覚えてる?」
「あぁ、お前が優勝したってんだろ? 一年も前の話だってのに、未だにそれを自慢したいのか? ――はいはい、すごいすごい」
「そのわざとらしい棒読み、イラッとするんだけど……ッ!」
「細かいことは気にするな」
 俺がニヤッとすると、長谷部は呆れ返ったような顔をしながら嘆息を漏らした。そして小さく咳払いをしてから話を続ける。
「そのミスコンの決勝で出場を辞退した落合戸菜理(おちあいとなり)って子がいたでしょ? その子が一部の生徒の間でまぼろしの美少女って呼ばれてるんだよ」
「あっ、それを聞いて思い出した! 確かにいたなぁ、スゲェ可愛い子が! 純真無垢で清楚な感じがいかにもお嬢様って感じでさ、ぜひともお近付きになりたいもんだ」
「……っっ!」
 長谷部はなぜか俺のことを鋭い目つきで睨んだ。わずかに下唇も噛み締めている。
 もしかして自分以外の女子が褒められて悔しいんだろうか? それにしては不機嫌すぎるような気もするんだけど。
 ……まぁ、考えても分かるわけじゃないし、訊いても教えてくれないだろうから見て見ぬ振りをしておこう。
「で、俺がその落合戸菜理ってヤツを捜すとして、長谷部はそれでどうしたいんだ? まさか剣道場の裏へ連れ込んで、竹刀でボコボコにっ!?」
「するわけないでしょーがっ! むしろアンタをそうしてあげよっかっ?」
「じょ、冗談だって! 間に受けんなよ……」
 本気の殺意らしき気配を感じ、俺は思わず後ずさりをする。
「だったら茶化して話の腰を折らないで!」
「……はい」
「私は今年のミスコンでまぼろしの美少女とハッキリ白黒付けたいの。このままじゃ納得できないし。だから達川にはその女子を捜して、今年のミスコンへの出場を頼んでほしいんだよ」
「なんで河見祭の当日になってそんなことを言ってんだ? その子に事前に頼んでおけばよかったのに」
「それができるなら、最初からそうしてるよ……」
 長谷部は視線を落とし、苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
「どういうことだ?」
「去年の河見祭の翌日、彼女になんで辞退したのか理由が訊きたくて、名簿でクラスを調べたんだ。もしかしたら、出場を辞退しろって誰かから圧力がかかったのかもしれないでしょ? 過去のミスコンでは、そういうことがあったみたいだし。そんな卑怯なことがあったとしたら、私は絶対に許せないから――」
 自然と握られていた長谷部の拳には力が入っていた。
 曲がったことが大嫌いで、義に反していると思ったら相手が誰であろうと正そうとする。そのせいで敵を作ることも多いけど、だからこそ慕っているヤツも多い。
 俺も長谷部のそういう性格、嫌いじゃない。
「――だけど落合戸菜理って名前の生徒、名簿には載ってなかったんだよ。丁寧に何度も確認したから、見落としはないと思う」
「それは興味深い事実だな。ということは、偽名で参加登録をしてたってことか? ――いや、待てよ? 他校の生徒がうちの生徒だと身分を偽っていたってことも考えられるか……」
 河見高校は周辺地域で最も生徒数の多いマンモス校なので、同学年であっても顔を知らないヤツなんてザラにいる。
 だからミスコンへの参加登録時に偽名を使ってもすぐにはバレないだろうし、うちの制服さえ着ていれば他校の生徒であっても紛れ込むことができるかもしれない。
 だが、そんな感じで色々と考え込んでいた俺に対し、長谷部は微苦笑を浮かべる。
「他校の生徒って可能性はないよ。まぼろしの美少女がうちの一年生――つまり現二年生だってことは、参加者登録を担当していたミスコンの実行委員長に確認したから。でもプライバシーの保護を理由に、それ以上のことは最後まで教えてくれなかったんだ。その人は今や卒業しちゃってて、行方を知らないし」
「じゃ、打つ手なしじゃん」
「私もそう思って諦めてたんだけど、今年の河見祭でまぼろしの美少女を見かけたって噂を聞いたんだよ。それも結構な数の目撃情報があるみたいでさ」
「ふーん……そうなのか……」
「だからお願いっ! 捜すのを手伝って! みんな忙しくて、達川のほかに頼める人がいないんだよ! 私も剣道部のクレープ屋が落ち着いたら捜すからさ!」
 額の前で手を合わせ、頭を下げる長谷部。その真剣な雰囲気から本気度の高さが伝わってくる。
 確かに俺たちは三年だから、決着をつけるなら今年のミスコンが最後のチャンスだもんな。それにここまで聞いた上で断わるのも気が退けるし、手伝ってやるか……。
「よし、引き受けた。ただ、結果はあんまり期待すんなよ?」
「やったぁ! ありがとっ、達川!」
 長谷部は満面に笑みを浮かべると、両手で俺の右手を握り、その場でピョンピョンと飛び跳ねた。
 握られている手に伝わってくる熱い体温と、柔らかい中にもマメで所々が硬くなった手のひらの感触。そしてなびいた髪からはシャンプーのいい匂いが漂ってくる。
「あ、報酬は唐揚げ弁当でいいよね? 達川って唐揚げが大好物だったでしょ? 河見祭の振替休日明けに用意するからさ」
 唐揚げ弁当というのは、購買部の人気メニューのひとつだ。しかも一日の入荷数が少なく、いつもすぐに売り切れてしまってなかなかお目に掛かることはできない。
 おそらく長谷部は部長権限を発動して、剣道部員の誰かにゲットさせようということなのだろう。
 報酬なんて期待してなかったけど、長谷部から言い出したことだし断わる理由もない。だから俺はありがたくその厚意を受け入れさせてもらうことにしたのだった。

 校舎三階の一室。ここでは写真部が写真展を開いていた。
 来場しているのは、生徒の保護者らしきお年寄りがひとりだけ。賑やかな河見祭の中にあって、ここだけは異様なくらいに静まり返っている。
 展示されているのは無難な風景写真や人物写真といった地味なものばかりなので、興味を示す生徒が少ないのだろう。アイドル写真やネタ写真なんかがあれば、もう少し状況も違っているんだろうけどな。
「おーい、淀川(よどがわ)はいるかー?」
 俺は展示スペースの裏に設置されている写真部員用の控えスペースに向かって声をかけた。すると奥から太い黒縁メガネの男がユラリと気怠そうに現れる。
 ――写真部長の淀川智仁(ともひと)。
 やや鋭さのある目と通った顔立ち、クールな雰囲気が漂っていて清潔感もある。外見だけなら女子に人気があってもおかしくない風貌だ。
 でもカメラヲタクということや教室でも堂々とグラビア写真集を眺めてニヤニヤするといった残念な趣向が災いして、好感度がなかなか突き抜けていかない。
 俺と淀川は一年の時に知り合って以来、今でもよく遊ぶ悪友のひとりだった。
「おぉ、達川か。何か用か? まさかうちの写真展を見にきた――ってことはないよな?」
「とある写真が入り用になったもんでな。買いにきたんだよ」
 その言葉を聞くなり、淀川の瞳がキラッと輝く。
「おおっ!? それはそれはっ! で、誰のどんな写真が欲しいんだっ?」
 淀川は身を乗り出し、怪しく口元を緩めながら興味津々で俺の返答を待っている。
 ――こいつは校内や行事などで自身や部員が撮影した人物写真を生徒たちに販売するという商売をしていた。
 大抵のニーズは密かに好意を寄せる相手の写真が欲しいといったものだが、そこは買い手が思春期真っ只中の高校生。中にはエッチな写真のニーズもあって、そういうものも取り揃えているらしい。
 もちろん学校は何も知らない。淀川が認めた『仲買人』しか写真を買うことができないシステムにして、取引の秘密を守っているからだ。仲買人は風紀委員や教員などによる摘発のリスクを負う分、中間マージンを得られたり淀川コレクションと呼ばれる極秘写真をもらえたりといったメリットを享受している。
 ただし、俺は淀川の悪友ということで直接取引が認められている、数少ない人間のひとりだった。買うのは今回が初めてだけど……。
「去年の後夜祭のミスコンに現れた、まぼろしの美少女の写真が欲しいんだ。お前なら持ってるだろ?」
「ほほぉ、なかなかレアな写真をご所望で。もちろん持ってるさ。俺の商品ラインナップに抜かりはないよ。ちょっと待ってくれ」
 淀川は控えスペースの奥からタブレット端末を持ってくると、ディスプレイを指で操作して画像データを検索していった。
 そして程なくその中からひとつのデータを選択し、拡大表示させて俺に見せる。
「ほら、この子だろ?」
 まさにそれはまぼろしの美少女の写真だった。
 色白の肌に整った目顔、ストレートの艶々としたロングの黒髪。純真無垢な笑顔には思わず見とれてしまうほどだ。
 こうして間近から撮影された写真をじっくり見てみると、いい意味で印象が違う。ミスコンはステージから遠く離れた場所で見ていたんだけど、その時と比べて数倍は可愛く感じられる。
 ――それにしても、さすが淀川だ。
 ピントや構図、コントラスト、最高の一瞬を切り取る絶妙のシャッタータイミングなど、撮影の腕が確かなのは認めざるを得ない。写真部長という肩書きは伊達じゃないってことだな。
「彼女は需要が高い割に撮影された写真がほとんどなくてさ、だからちょっと値が張るんだ。サービス判プリントが千円ね」
「ちょっ! 写真が一枚千円もするのかよっ? お前、足元を見やがって!」
「それは心外だな。通常小売価格は千五百円なんだぞ? でもお前は友達だからサービスしてやったってのに……」
 淀川は口を尖らせているが、今の言葉が本当なのかどうかは別の話だ。
 千五百円が千円になったという部分だけ聞けば、確かに安く感じる。でも冷静に考えれば、写真が一枚千円なんて明らかに高いし、普段の価格が千五百円であるという証拠だってない。
 なにより俺は以前、淀川から写真を買ったという友達から一枚三百円だったという話を聞いたことがあるのだ。だからそのつもりでいたのに、まさかその三倍以上の値段を吹っかけてくるとは想定外だった。
 これでは長谷部から報酬として唐揚げ弁当を受け取ったとしても完全に赤字だ。だからといって写真なしで人捜しをするのは厳しいものがある。
 やはり買わざるを得ないか……。
 無意識のうちに俺は溜息を漏らしていた。そして白い眼で淀川を見る。
「あのなぁ、お前の写真は価格設定が高すぎ……。もう少し負けろよ……」
「はっはっは! 分かってるって! ほかならぬ達川の頼みだ、五百円にしておいてやるよ。ちなみに白状するけど、通常小売価格が千五百円ってのは駆け引きのためのハッタリだ。でもその写真、普段はホントに千円で売ってるんだぜ?」
「そんな値段をつけてて売れるのかよ?」
「俺のところへ来るヤツのほとんどは買うよ。もっと高値がついている写真だって、当たり前のように取引してる。考えてもみろ、お望みの相手の写真が欲しいけど自分の力じゃ手に入らないからこそ、なりふり構わず俺みたいなクズを頼るわけだろ?」
 淀川は得意気な顔をしながら同意を求めるような目を向けてくる。
「クズって自覚はあるんだな、お前……」
「当然! そうじゃなきゃこんな商売はやってられないって。で、その写真、買うんだろ?」
「あぁ、買うよ。お前の言うように、ほかに当てはないからな」
 俺はポケットから財布を取り出し、中に入っていた五百円玉を一枚掴んで淀川へ手渡した。
「毎度ありーっ!」
 ホクホク顔になった淀川は、鼻唄を歌いながら写真をプリントしに写真部室へ向かうのだった。

 グラウンドの西側では、運動系の部が主に軽食の模擬店を出店していた。どこも大きな声で威勢よく呼び込みをしており、その活気に誘われて人もたくさん集まってくる。間違いなく河見祭で一番賑やかなエリアだ。
 そこに着いた俺は、知り合いのいる模擬店を中心にまぼろしの美少女について聞き込みをしていった。もちろん、移動中はすれ違う女子の顔を注意深く確認することも忘れない。
 そしてバスケ部のおでん屋で聞き込みを終え、陸上部のポップコーン屋へ向かって歩いている時のことだった。
「あっ、達川先輩!」
 正面からやってきたそいつは、俺の姿に気付くや否や爽やかな笑みを浮かべてこちらへ駆け寄ってきた。
 中野望(なかののぞみ)。うちの高校の二年生で、柔道部に所属している男子だ。
 ただ、中性的な顔立ちと百六十センチメートルに満たない身長、撫で肩で細い体格などから遠目には女子にも見える。
 俺たちが知り合ったのは去年の春で、きっかけは河見駅前で他校の不良たちにカツアゲされそうになっている中野を俺が助けたことだった。それ以来、何かと交流がある。
「よぉ! 楽しんでるか?」
「いえ、午前中は柔道部が出店している焼きそば屋で店番をしてまして。やっと交代になって、これから見て回るところなんです」
「そうだったのか。それはお疲れさん。――あっ、そうだ。中野はこの写真の子を見たことはないか? わけがあって捜してるんだ」
 俺は悪徳商人の淀川から購入した写真を中野に見せた。
 すると直後、中野は大きく息を呑んで目を丸くする。
「こ、これはっ?」
「去年の後夜祭のミスコンに出場した、まぼろしの美少女だ。今年の河見祭で彼女を目撃したってヤツが結構いるらしいんだよ」
「……そ……そうなんですか? へぇ……」
 中野の声は微かに震えていた。なんとなく上の空な感じで、ボーッとしている。
 ひょっとすると、まぼろしの美少女に一目惚れでもしたのだろうか? 確かにそれだけ可愛い子であることには違いないけど。
「――心当たりはあるか?」
 その問いかけに中野はハッとすると、気を取り直すように小さく咳払いをする。
「えっと、残念ながら僕は見ていません。少なくとも柔道部が模擬店を出している近辺には現れていないですね」
「そっか、サンキュ。……だとすると、グラウンド東側と校舎内を探した方が良さそうだな」
「達川先輩、どうしてその人を捜しているんです? もう少し詳しい話をお訊きしてもよろしいですか?」
「あぁ、実はな――」
 俺は長谷部に捜索を頼まれたことやその理由、ここまでの調査結果などを掻い摘んで説明した。もちろん写真の入手ルートに関しては、うまく誤魔化したけど……。
「――というわけだ」
「そうだったんですか……」
 終始神妙な面持ちで訊いていた中野は、納得したように小さく頷く。
「じゃ、俺はそろそろ行くよ」
「あのっ! 達川先輩っ!」
 俺がその場を立ち去ろうとした瞬間、中野は真っ直ぐこちらを見つめてきた。その凛々しい瞳には何かを決意したかのような意志の光が灯り、一点の曇りもない澄んだ輝きを放っている。
「うん? どした?」
「僕も一緒に行っていいですか? ひとりで会場を見て回るのも寂しいなぁって思っていたところだったんです。それともお邪魔……ですか……?」
「いや、別に構わないけど。お前さえそれでいいんならな」
「ありがとうございますっ!」
 中野は嬉しそうな顔をすると、俺に向かって深々と頭を下げた。
 そこまで感謝されるようなことでもないと思うんだけどな……。

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