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2014年11月10日 (月)

怪しい隣人

Photo

イラスト るぅ(@ruu_bot)

双子のライオン堂 店長が出す同人誌「虹虹」に寄稿しました。

上記、るぅさんのイラスト(1部分です)と「ゆるキャラ・ぐれキャラ」「怪しい隣人」をテーマに小説を書きました。

11月24日開催の文学フリマで完全版をお楽しみください。

以下、サンプルです。

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カーサ乾。
近所の住人からは『アリ塚』と呼ばれているデザイナーズマンション。もちろん、悪い意味でアリ塚と呼ばれ、デザイナーズマンションと言っても、前衛的過ぎて、もはやおしゃれ空間ではなく魔空空間だ。歪に斜めへ伸びた最上階は、地域一の高さを誇り眺めは最高だが、部屋はその傾斜通りに造られ、床面積の割にはゆったりとできない。そんな場所に住めば、まっとうな人間でもその外観と同じくねじまがった性格に変貌してしまうに違いない。階ごとに天井の高さも違い、中には長身の人間なら頭をぶつけそうなほどに天井が低い階もある。外壁の赤黒い色も特徴的で、人によってはその色から『ドラキュラ城』と呼んでいる。もしかしたら、住人の数だけ二つ名があるのかもしれない。
 そこは、都心から一時間弱も離れた郊外の駅から、更に歩いて三十分はかかる辺境のマンションだ。バブル期あたりに建てられた築二十五年のマンション。バブル期は、都心の土地価格が信じられないほどに高騰し、平民達は自分の根城を求めて郊外へ郊外へと落武者のごとく離れていった。その頃は、こんな辺境の歪なマンションでもそれなりの家賃を取り、それでも住人で埋まっていた。バブル期というのは、それほど人を狂わせていたのかもしれない。狂ったバブルがこのマンションを建てたのだろうか。しかし、そんな頃は俺もまだ小学生であり関係ない。今じゃ、その外観と立地条件から家賃も落武者のごとく急激に下落し、信じられないくらい破格な値段と変貌した。だからこそ、俺のような人間でも住んでいられるのかも。けれど、空き部屋はあるし、住人達は何をしているのか分からないような奴ばかりだ。
 もう、何年このマンションに住んでいるだろうか。いや、思い出す必要もないだろう。出るつもりもないんだから。都心とか郊外なんて概念は俺にはない。雨を凌げる屋根があり、休めるための寝床がある。更には家にいながらにして人と関わっていられるパソコンがある。それだけで充分だ。あとは、俺のためにネット通販の商品を宅配してくれるお姉さんがいる。
 何を望むんだ? 何も望みはしない。

 俺は、いつものように昼ごろに起きるとさっそくパソコンを起動させ、カーサ乾の住人が集う独自のコミュニティサイトへアクセスした。ここは、塞ぎがちで交流が不足になりやすいマンション住人のために管理人が独自に開設したオリジナルのコミュニティサイトである。住人しかアクセスできず、住人同士がそれぞれにマンションで起きた出来事から個人的な愚痴まで幅広く書き込めるようにでき、それぞれに交流できるようになっている。
 さっと昨日からの流れを追っている。どうやら、『ゆるキャラ』が一番ホットな話題のようだ。どこもかしこもゆるキャラだらけの世の中になっていると、とある住人が嘆いている。しかし、そんな人間のアイコンもまた、ウサギと犬を掛け合わせたような謎の哺乳類を描いたイラストのアイコンである。何のキャラかは知らないが、そのアイコンで嘆く限りはどこか矛盾を感じるのだが。その意見に同調する人間達も、なぜか同じように謎の動物を描いたアイコンばかりだ。そういえば、最近はイラストのアイコンが増えた印象がある。このサイトのほうが、ゆるキャラ……というか、どぎついキャラブームじゃないか。
 そういう俺は、簡略化された点と線のアイコン。人が微笑んでいるようにも見えなくない、簡素なアイコン。この平凡さが、むしろこのアイコンの並びの中で浮いている。
 いや、これはゆるキャラではない。とある会社に敬意を払う意識があるからこそだ。そう、俺のライフラインと言っていいネット通販会社。

 チャイムが鳴った。
 誰がきたかは大体見当つく。というか、こんな俺のことを訪ねる奴なんて決まりきっている。
 俺は、急いで自分よりも少し大きめのサイズのパーカーを羽織り、フードで頭を覆う。
 しかし、すぐにはドアを開けない。まずはドアスコープを覗くんだ。
 魚眼レンズの先には、レンズのせいで歪みながらもその活発そうな短い髪と、躍動感ある大きな瞳が見える。いつも通りの彼女の姿がそこにある。もう肌寒い季節に入ってきたものの、彼女はいつも長袖の腕をまくっている。スポーツ経験者なのだろうか。それとも、この仕事で鍛えられたのだろうか。引き締まった二の腕。俺の荷物を運んでくれる腕。その腕の中に、今日も俺の荷物が包まれている。
 腕だけじゃ満足いかない。その挙動もまた、じっくりと観察するのだ。もうすっかりとこっちがすぐに出ないのが分かっているのか、今では平穏な表情を見せているが、最初の頃は少し困った表情も見せて楽しませてくれた。恐らく、このマンション自体に長居したくなかったのだろう。不安そうな表情を振り撒いていた。あれはいい表情だった。興奮した。
でも、いい。彼女の平然とした表情でも俺は満足だ。分厚い鉄のドア一枚を隔てて彼女と接していられる。この瞬間がたまらない。
 じっくりと彼女を観察した後、俺はゆっくりとドアを開ける。必要最低限の隙間だけだ。三十センチ程度だろうか。これ以上は無理。彼女は、その隙間に押し込むようにしてダンボールを突っ込んでくる。俺の領域に、彼女の華奢な手が侵入する瞬間。俺の鼓動も速くなる。
「ハンコ、ください」
 ぶっきらぼうな声だが、少し甲高く心地いい響き。俺はゆっくりと玄関脇に置いてあった小箱からハンコを取り出し、彼女が差し出した紙にハンコを押し付ける。その際、わざと少し彼女の指に触れるのだ。そう、これが人のぬくもりだ。暖かい。
 彼女は、そんなやり取りを淡々とこなすとすぐさま踵を返し立ち去っていった。
 本当に刹那的なやり取りなのだが、俺はこの瞬間に快楽を見出している。そう、これが人間なんだ。俺は彼女の指の感触を思い出し、パーカーの奥にある顔をにやつかせる。

 それから、俺は暇な午後の時間を潰すためにドアスコープを覗く。そうやって、時折通る住人を観察し、その変化を眺めながら時間を潰すのだ。エレベータから一番近い部屋のため、奥にある部屋へ向かう住人は複数いて、その住民達を観察するのだ。
 そういえば、最近隣人の佐伯さんを見かけないけど。何かあったのだろうか。
 あの人も、見た目は俺と同じ歳くらいだけど。異常に痩せて、棒のように細長い。目つきがうつろで、いつもどこを見つめているのか分からなく、ふらふらとさまよう様はゾンビのようだ。他の住人と同様、正体不明だ。引っ越した情報はコミュニティサイトにはない。引っ越せばコミュニティサイトのネタとして盛り上がるはず。住人の大きな動きは、サイトのいいネタになる。俺もさせてもらう。
 しかし、平日の午後なだけに人通りも殆どない。おかしな隣人達ばかりだから、昼夜逆転の生活で夜まで出てこない、不規則な生活を送る人間が多いのだろう。
 暇だ。
 そう感じたとき、変化は訪れた。
 何か大きく丸い物体がドアスコープの狭い視界を覆った。ほんの数秒の出来事だが、確かに何か大玉のような物体が横切った。物体の上には頭部と思わしき半円状の盛り上がりが見えた。その両サイドからは、伸びきった靴下のような耳らしき何かが垂れ下がっている。
 もっと驚くべきは、その物体の上に小学校低学年くらいの少女が乗っていること。ドアスコープ越しに一瞬目が合った。
 きぐるみ?
 俺は、自分が目撃した何かに戸惑い、混乱した。
 今のは……きぐるみ? いや、なんでこんなマンションに? じゃあ、ああいう生き物というのか? まさか、それこそ馬鹿げている。じゃあ、あの少女は何だ? きぐるみキャラだから戯れてるんじゃないのか? いやいや、だからなんでこのマンションで。
 自問自答を始めるが、すぐに答えが出るはずもない。動揺が激しくなるばかりだ。
 俺は、一旦ドアスコープから目を離しドアに耳を当てて外の音を窺う。もうドアスコープの視界からあの物体は消えている。それでも、まだすぐ近くにいるはずだ。何をしている? どこに行く? 少女は大丈夫なのか?
 ズズズと何かを引きずる音が聞こえている。恐らくは、あの物体が歩くときに足を地面に擦っているのだろう。見た目からして動きは鈍そうだが。その鈍さがまた不気味である。
 しばらくして、隣の家の扉が開く音がする。どうやら、隣室に入ったみたいだ。じゃあ、あれは隣の佐伯さん?
 知りたい。あの正体が知りたい。佐伯さんかどうか確かめたい。何よりも、あの少女が大丈夫なのだろうか。

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