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2014年11月 9日 (日)

消された魔法 サンプル

 一番下の妹が泣いている。
 うるさい。
 二番目の妹に何かを訴えているようだ。
 しかし、うるさい。
 階段を駆け上がってくる音が近づく。
 三番目の・・・いや、私に近づく。ボロい家に足音が響く。
「お姉ちゃんのばかぁ」
「あたしは、ばかじゃない」
「だってだってー」
「何があったのさ」
 一番下の妹は、泣くのを堪えながら、説明する。
「それで、そのアニメを消したのがあたしだってこと?」
 泣くのを堪えながら、一番下の妹が頷く。
 あたしは、椅子から勢いをつけて立ち上がる。
「それは、申し訳ない。でも、あんたそんなの簡単に処理できるでしょ」
 一番下の妹は、まだ少し泣いている。嗚咽を堪えながら、何か良いたそうに口をパクパクする。
「そうかそうか。まだなのか。あんたさ、いま何年生なのよ」
「ロク」
「六年生だったらさ、それくらいできるでしょ」
「まだ習ってないもん」
「習うとか習わないとかさ、そんなこと言ってたら生きていけないよ、本当」
 また泣き出しそうな顔をしたので、これ以上うるさくなると、あたしの人生に影響が出そうなので、問題を対処することにした。
「で、そのテープはどれ?」
 一番下の妹は、一瞬嬉しそうな表情を見せたが、今度は馬鹿にした風に口元を緩めて首を横に振った。
「何?」
「ブルーレイ」
 そう言って、円盤状のメディアをあたしの前に突き出した。
 こいつのこういうところが、本当に嫌いだ。それでも怒りを堪えて、あたしはポケットに入れてあったスプーンを取り出す。
「レドモニトモヨガクロ!」
「これでプリティームーン見れるの?」
あたしは、胸を張って、頷く。
 そう、あたしは魔法使いなのである。
 高校三年生で、今年受験生。家族構成は、父、母、妹二人に犬と猫のハーフの生き物一匹で生活しているごく普通の魔法使いなのである。
 しかし、あたしが受ける予定の大学の試験では魔法は使えないのである。これが本当に困った。けど、その大学に行きたいのだから仕方がない。もちろん、どうにか抜け道がないか、超調べたんだけど。魔法とかネットとか使って。まあ、要約すると「魔法を封印する魔法」をかけられるらしい。しかも、超上級魔法らしい。それを覆す魔法を習得するのは……無理。普通に勉強した方が良いのだ。
 そんな訳で、くそまじめに勉強している。が、なかなか集中できない。集中し始めると邪魔が入る。
 そう、また階段を駆け上る足音が聞こえる。
「お姉ちゃんのばかぁ」
「なんでよ、さっき直してあげたじゃん」
「これ来週のだよー」
「お、それは失礼」
 そういうこともたまにある。だって、消しちゃった録画を戻す魔法なんて、いまどき使わない。そんなのネットで探してダウンロードして見ればいい。
「もう先がわかっちゃったー」
「そもそもアニメの展開なんて、同じようなものだから、だいたいわかるでしょうが!」
 ついついイライラして怒鳴ってしまった。案の定、一番下の妹は、今にも泣きださんばかりの顔をしている。んーほっといても良いけど、母上に怒られるなぁ。
 面倒くさいけど、対処しよう。
「ごめんごめん。もういちど直してあげるね」
「さきわかっちゃんだよーつまんないよー」
「大丈夫大丈夫」
「レドモニトモブンゼ!」
 目の前から、一番下の妹が消える。
 そう、最初から元に戻したのである。
 ん、最初?どこが最初?ん、やばくない?ま、いっか……。

         ☆

 夏休みが明けて久しぶりの登校日。高校生活最後の夏を終えて、みんな何か変化あったかな、なんて思ったりしたけど、進学校なので大半の生徒が受験勉強だったはずだ。
「おはよーマミ」
「おはよう、玉須川」
玉須川は、あたしの幼馴染、腐れ縁と言った感じ。クラスが違うことはあっが、かれこれ十五年以上も一緒にいる。とても優秀で、性格も良い。悪いところは、目くらいか。それも顔つきではなくて、視力の方だ。
「マミちゃん、なんか太ったみたい」
「ゾスロ……、痛い痛い」
途中まで言いかけたところで、玉須川による蹴りを喰らう。そうそう、彼女は、魔法よりも手が先に出る。魔法使いらしくない。別に、魔法が苦手なこともない、むしろ得意な方で、県内でも一位か二位。大学進学志望って話だけど、魔法省に就職の話もあるらしい。玉須川は両親が早く亡くなり、いまは養子として育ててもらっているので、進学を悩んでいるらしい。進学するなら特待生で入って負担を減らすんだとか。出来すぎた子なのだ。
そういえば、玉須川の両親が亡くなったのはいつだったかな。ふと、そんなことを考えてい

た。
「あのさ、変な魔法ばかり覚えてないでさ、ちゃんと受験勉強しないとだめだよー」
「さっきのは適当だよーさすがに殺人魔法は、ないない」
そう口にした途端、同じ通学路を歩く学生たちからの視線が集まった。
さすがに「殺人魔法」はまずい。禁止魔術である。
禁止魔術、簡単に言えば規則違反の魔法である。
ロボット三原則よろしく、魔法三原則なるものがあたしが生まれるずっとずっと前に定められた。魔法学校に入学すると同時に教えらえる。いや、正確に言えば、生まれて初めて魔法を使うことになるその日に、魔法省長官から手紙が来る。

『マホウつかいのやくそく
1、    マホウつかいは、マホウでヒトにキガイをくわえてはならない。
2、    マホウつかいは、ナカマをタイセツにしなければならない。
3、    マホウつかいは、ジブンをマモらなければならない。
以上
       魔法省長官                 』

 懐かしい。懐かしすぎる。そうだ、あれはあたしが4歳の時だ。母が嬉しそうに、何度も何度も読み聞かせてくれた。父も嬉しそうに声を出して読んでいたっけ。当時は、最年少なんじゃないかと、町で少しだけ話題になったんだった。なんかすっかり忘れてた初めて魔法を使った日のこととか思い出してきた。
「もう、一人の世界に入ってないでよ。私も一緒に変な目で見られちゃったじゃん」
 バシバシと肩を叩きながら訴え続ける玉須川を横目に、あたしは思い出に浸っていた。
 懐かしい!懐かしい!懐かしい!初めての魔法!初めての発火!初めての飛行!初めての……。
 玉須川がまだ肩を叩き続けている。しょうがないので我に返ることにする。
駅から続く長い坂道を上りきると、学校が見えてくる。
学校校舎がそこに現れる。
箒に跨って登校するものもいない。
とんがり帽子をかぶったものもいない。
黒猫を連れているものもいない。
丸メガネでマフラーのものもいない。
大きなボロボロの本をもったものもいない。
断崖絶壁にそびえたってもいない。
それがあたしの通う魔法学校である。
校門をくぐると、約一か月ぶりの学校の香りを感じた。文化の香りなんて高尚なものではなくて、土埃や野外部活をする生徒の汗と熱気。自分がこの夏を過ごしたクーラーの効いた自室やクーラーの効きすぎた塾の教室とはまったく違う。生きている!と感じる香りだ。
少しずつ校舎に近づく。あたしはテンションが上がって、玉須川にくっついた。あたしの勢いに押されて、玉須川はよろよろと倒れそうになる。腕を引っ張って、倒れないよう支える。玉須川が怒ると思ったので瞬時に言い訳を考えていたけど、いつものような返事はなかった。笑っているような、泣いているような顔であたしを見つめる。ものすごく怒っているのだろうか、と考えてみたが、それほどのことをしたとは思えない。ではなぜ?
そうこうバタバタしながら、下駄箱に近づくにつれて、玉須川の身体は固くなっていくようだった。はてはて。
あと1mで自分の下駄箱というところで、玉須川は地面に座り込んでしまった。
あたしはさっきくっついた時、倒れそうになってどこかひねったりしたのかと思った。けど、どうやら様子がおかしい。
「大丈夫?」
反応がない。
「おーいおーい」
 反応がない。
 顔を近づけてみる
 何か言ってるようだけど、聞き取れない。小さい声、というか弱った声だ。
 周りは、あたしたちを避けるように、普通に通り過ぎて、靴から上履きに履き替える。
 友達は少ないかもしれないけど、この状況で誰も声をかけないなんて、なんかおかしい。
 ただ、いま周りのみんなに憤っていてもしかたがない。玉須川の肩を撫でる。
 少し震えてる。
「どうしたの」と耳元で優しく聞く。
すると、ゆっくりと腕を上げて、下駄箱を指した。丁度、玉須川の上履きのある位置。
あたしは下駄箱に近づく。
あたしは目を疑った。
上履きがあるべき場所に、バジリスク――ニワトリと蛇のハーフ獣で、頭はニワトリで尻尾が蛇の生き物――の死骸が置いてあった。
気が付くと、周りに人はいなかった。
二人だけだった。
チャイムの音が、校舎の隅々まで、鳴り響く。
これは、宣戦布告だ。

             ☆

 魔法学校にも保健室はある。なんでも魔法で治るわけではない。いや、上級魔術師になれば、治せないことはないけど、学校というところは魔法になるべく頼らないようにする場所なのだ。そういう常識だ。
「何があったのよ。なんでも話しなよ」
カーテンの奥で、布団をかぶった玉須川にあたしは言う。
 あの後、玉須川を背負って、下駄箱から保健室まで運んだ。
 保健の先生は留守だったので、勝手に中に入って、ベッドに寝かせて、あたしは少し硬いソファーに座って、あれについて考えていた。
 ちょっと前に、ずっと静かだったカーテンの向こうから、玉須川が微かに動く音が聞こえた。なので、声をかけてみたが、反応がない。んーだいぶダメージがあったみたいだ。
まあ、そりゃそうだ。
新学期そうそう、自分の下駄箱に、バジリスクの死骸。
たちの悪いイタズラ。いや、イタズラじゃ済まない。
 そんな怒りを抑えながら、玉須川に再度声をかけてみる。
「おーいおーい」
 声をかけながら、ベッドに近づく。カーテンを勢いよく開ける。
 玉須川は、ベッドに腰掛けながら、毛布を頭からかぶって、泣いていた。
 横に腰を下ろす。
 そして、そっと身体を撫でてあげる。
 しばらくそうしていると、落ち着いてきたようだった。
 あたしは、玉須川を撫でながら、保健室の窓から見える空を見ていた。雲一つない晴れ。少し気味が悪かった。
 落ち着いてきたようなので、表情を覗こうと、視線を向けると同時に、ゆっくりと話をはじめた。
「あのね、最初は気のせいだと思ったの」
 どうやら事の起こりは、夏休みの委員会総会まで戻るらしい。
 夏休みも半分が過ぎたころ、委員会総会は開かれた。
 生徒会を頂点に、各委員会に所属する生徒が登校しないといけない。
 玉須川は、生徒会長ではなく、図書委員長だ。二年生の終わりまで生徒会に所属していて、誰もが次期生徒会長は玉須川だと思っていたが、本人の意思によって三年生に進学した時、図書委員会に入った。最初は、委員長職も嫌がっていたのだけど、丸め込まれて、委員長に。いやいや、これらは今回の件に、ほとんど関係ない。
 最初の異変は、委員会総会の朝、起きた。
 下駄箱に、上履きがなかった。
 何人かの人に聞いたけど、誰も知らないと答えた。
 そして、スリッパで午前中過ごしていると、校内放送で、呼び出された。
 飼育小屋の中にあったという。
先生は玉須川が飼育小屋に入って忘れたんじゃないかと言った。
玉須川は、バジリスクが好きだった。なので、生き物係ではないけど、頻繁に飼育小屋に通っていた。
 それからも、何度か学校に登校する機会があった。
 図書室の本を全て棚からだして、状態や欠損などを調べる日。
 上履きの中に、ぬめりのある鱗が。
生き物係の代理で、バジリスクの様子をみる日。
上履きの中に、まだ生きている幼虫の入ったハチの巣が。
 魔法省への就職の件、そろそろ決めないかという先生に呼び出された日。
 上履きの中に、器用に結ばれた藁人形が。
 それでも玉須川は、ちょっとしたイタズラだと思って、事を大事にしないように、誰にもそれらのことを言わなかったのだ。
 それでも、今日のは一線を越えている。
 玉須川が大切にしていたバジリスクを。
 話を聞き終わると同時に、あたしは下駄箱に走った。
 思った通りだった。
 玉須川の下駄箱には、もうバジリスクの死骸はなかった。
 顔を近づけて匂いを嗅いでみる。微かに血の匂いがしたが、消毒したような匂いが勝った。誰かが片づけたのだ。一瞬幻覚を見せられたのかと思ったが、そうではない。これは、本当に起こっていることだった。
 今度は、玉須川を一人にしていることに気が付いて、慌てて保健室に戻った。
 保健室の扉は、出るとき開けたままだったはずなのに、閉まっていた。誰かいる。
 扉に、静かに近づく。耳を澄まして、中の様子を感じ取ろうと努力する。
 保健室の中から声が聞こえた。
「警告したのに」
 あたしは扉を静かに、ゆっくりと開ける。
「何度も警告したんだけど、なんで気が付かないのかしら」
 少し隙間ができた。そこに耳を入れる。
「黙っていては分からないわ」
 聞いたことのある声だった。
 凛々しくて、優しくて、品のある声。
「玉須川さん。あなたがいると迷惑なのよ」
 玉須川の声は聞こえてこない。もう少し扉を開ける。人影がカーテン越しに見えた。ベッドに腰掛けた玉須川に対面して立っている人影。長身で、とても姿勢が良い。
「邪魔なのよ、分かる?」
 玉須川が、カーテン越しにも震えているのがわかった。
 どうにかしないといけない。
 相手は誰?
 声は聴いたことあるけど、分からない。
 もう少し近づこうと、扉を身体一個分開けて、静かに部屋の中に入る。
 気が付かれないギリギリまで近づこうと、静かに音を立てないように、足を出す。
「あなたさえいなければ、私が魔法省に推薦でいけるのよ」
 そう、凛々しい声の主は言い放った。
その時、さっき少しだけ開けてあった窓から、風が入り込んできた。生暖かい夏の風が、二人の人影を投影していたピンク色のカーテンを揺らす。
そして再度、風が、今度はさっきよりも強めの風が、侵入してきた。
カーテンは大きなうねりを起こしながら、さも踊っているかのように激しく揺れた。
カーテンが持ち上がった。
そのとき、人影の主の横顔が見えた。はっきりと。
生徒会会長――卍乃継百合子――だった。
容姿端麗、成績優秀、まあ、絵に描いたような生徒会長像をなぞったようなつまらない存在。そしてこれも定番だが、地主の家系で、親族に議員やら偉いやつが多いという。
しかし、魔法学校では、それほど、目立たない存在だった。
それが卍乃継百合子だ。
彼女が、ここまで個性的だったとは知らなかった。教師たちの言いなりなんだとばかり思っていた。生徒会はそういう機関だった。生徒のためではなく教師のための組織。生徒同士を見張りあわせ、教師の負担を減らすための装置。それも演技だったのか。
 まだ、卍乃継はこちらに気が付いていない。話を続けようとした。
「あなたは」ここで役者が大切なセリフを言うかのように少しためる。
「親殺しのクズ野郎なのに。ずるいわ。」

           ☆

「大丈夫、マミちゃん。ごめんね、私のせいで」
「気にすんなし」
 あたしは腕の傷を舐めながら、笑って返事をした。そして続ける。
「私のせいで」
「気にすんなって。それよりどうするかなぁ。次の手を考えておかないと。相手が相手だし」
 沈黙。
保健室から移動して屋上に来ていた。
 鳥の鳴く声が聞こえる。
「まあ、なんとかなるっしょ」
 こうなった以上、仕方がない。
「でも、文魔祭での公開試験が」
 あ、すっかり忘れていた。文魔祭。一年に一度のお祭り。各クラス、各学年、各部活、各委員会が一年の成果を発表する場所でもある。そして、生徒個人で臨む公開試験。三年間で覚えた集大成を卒業前に披露する試験。
 この試験にはもうひとつ意味がある。内申である。
 進学するにしても、就職するにしても、この公開試験の内容が大きく影響する。
 あたしの場合もこの試験は大切なのだ。あたしが行きたい大学には、あたしの実力だと少し難しい。夏休み返上で、勉強はしたけど、やっぱり模試とかの結果をみてもこのまま勉強していって、スムーズに合格かと言えば、五分五分だろう。そうなると、その内申点が重要になってくる。少しでも下駄をはければ、それに越したことはない。
 けど……。
「マミちゃん、魔法、使える?」
 様子を伺うように、怖がるように、玉須川が聞いてきた。
「使えないみたい」
 あたしは、魔力を失った。
 魔法三原則を破ったから。

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