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2014年11月 9日 (日)

文化祭の休日 サンプル-1

「なにそれ、違うって! もっと、昇竜拳だって船水先輩怒鳴ってたじゃんよ」
 七尾愛未は曲に合わせて力いっぱい飛び跳ねたつもりであったが、一緒に練習していたクラスメイトの胡桃屋沙紀が呆れたかのように半笑いで愛未の背後から忠告してきた。それを聞いて、愛未は少し疲れた表情を浮かべながらうんざりと自分の椅子にドカリと腰掛ける。どうしても、飛び跳ねるごとに忠告が入って全然練習が先へ進めない。確かに、愛未の飛び跳ね方も指摘されたとおりに小さすぎるのだが、胡桃屋の忠告の仕方がどうも気に入らずになかなか強いジャンプを意識し切れないでいるのだ。
 時計を一瞥すれば、時刻は既に十七時を少し過ぎたところだ。もう一時間以上は練習していることになる。
 愛未は、もう一度鼻で大きく息を吐き出すと、胡桃屋の顔を睨んでやる。
「だから、そもそもその昇竜拳が分からないのよ。なに、昇竜拳って?」
「知らないよ。船水先輩に聞いてよ。とにかくさ、愛未のジャンプは小さくて勢いが足りないのよ。こう、なんつーかさ、花火がはじけるような気持ちで飛び跳ねてくれない? じゃないと、私達とのリズムというか、親和性? 俺達の友情とグルーヴが世界を動かしていく? よく分かんないけど、見た目きれいじゃないのよ。じゃないと、また船水先輩怒鳴るでしょ」
 胡桃屋の言葉は、半分が船水の口調を真似たそれであり、どこかその話す態度もふてぶてしく女子高生らしさがない。それがまた愛未をイラつかせる。
 愛未は、その言葉にもう一度心の中で溜息を吐き出す。胡桃屋は、少し船水の発言に臆病になりすぎだ。船水は既にもう何年も前に愛未の高校を卒業している。卒業生というだけで現役の生徒達に絶対的な関係など微塵もない。だが、何故か船水やその他数名の卒業生達は、夏休み直前から学校に顔を見せるようになり、現役の生徒達に踊りの指導をするようになっていた。それは、今年に限ったことでない。去年の同じ時期にも卒業生の何人かが学校に現れて踊りの指導をしてくるようになった。そして、文化祭が終わると同時に彼らは消えていくのだ。

「神代中央高校の文化は現役生が継続・発展させ、卒業生が補助する。それが戦前からあるこの学校の伝統なんだ。伝説の継続こそが、俺達卒業生に課せられた使命なんだぞ。お前ら、それを胸に気合入れて練習しろ!」

 このような言葉はもう何度も愛未は耳にしている。頭の中で反響しそうで、先輩達が口を開けば耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。
 そう、全ては十月頭に控えた文化祭のせい。
 神代中央高校伝統のイベント『神代竜宮祭』
 鯛や平目の舞い踊り、というわけではないものの、愛未の通う神代中央高校ではもう何十年と、文化祭で竜宮の舞を踊ることが決められていた。そして、その指導に当たるのが歴代の卒業生なのである。その卒業生の一人に、愛未や胡桃屋が先ほどから口に出している船水先輩がいるのである。船水先輩は、最近仕事を辞めたばかりのためか、頻繁に練習へ顔を出しては現役生達を厳しく指導している。そのノリは、明らかに体育会系であり、上下関係を中心とした仲間内でのやり取りを重んじている。その過度な態度と船水先輩が掲げる理想像は、愛未にとってはただ鬱陶しいだけであった。
 だが、胡桃屋を中心とした他の連中はあまり気にしていない様子である。むしろ、先輩に積極的に話しかけ指導を貰い、関係をより厚いものへと構築しようとしているかのようだ。その態度が、愛未には不思議でならなかった。それでも、文化祭を拒否するわけにもいかず、踊り以外は自分の理想とする文化祭がしっかりと行われようとしている。つまり、踊りさえしっかりとこなせれば何の問題もないのだ。だからこそ、愛未はもう一度しっかりと飛べるようにと席から立ち上がり苦手な箇所へと再チャレンジしようとする。
 曲が盛り上がり、段々とジャンプするタイミングが近づいてくる。
 今だ!
 愛未が腰をかがめ、膝に力をためて一気に吐き出そうとしたその刹那
「昇竜拳!」
 飛び跳ねようとした瞬間に、愛未の背後から飛びつくようにして愛未よりも高く飛び跳ねてくる者がいた。
「てい!」
 更に、もはや飛び跳ねるのではなくただ体をぶつける者までも現れる。そのために、愛未の体はよろけて近くの机に突っ伏すかのように倒れこんだ。
「ちょっと、なによ!」
 愛未は、慌てて体勢を立て直しながら文句を上げる。
 そこには、一人の背が高くがっちりとした体格の男子と、小学生が紛れ込んできたのではと見間違うかのように小柄な女子が二人はしゃいでいた。
「俺、エクスカイザーのアラヤっす!」
 そう言って、背の高いお調子者の男子はその大きな体格をコマのように回転させながら教室中をぐるぐると回りだす。エクスカイザーといえば、最近高校生の間で流行っている、いわゆるイケメン揃いのダンスユニットなのだが、その高校生の姿はただの台風を題材にした下手くそなパントマイムにしか見えなかった。それでも、何人かの男子がその姿に「いいぞ!」と囃す声を掛けている。その光景に、愛未は今日何度目かの溜息を吐き出すしかなかった。
「九重、うぜーよ!」
 胡桃屋がその男子に向かって叫んでいたが、九重と呼ばれた男は調子に乗りすぎてやめる気配を見せなかった。
「よし、あちしはパズーだ! お前ら、全員地方のゆるキャラにして、地方財政を無駄にしてやる!」
 九重と一緒に愛未の練習を邪魔したもう一人の小柄な女子が、今度は教壇に飛び乗って叫んだ。両手を腰にやり、ない胸を堂々と突き出している様は力強いが、クラスメイトは皆その姿を一瞥してどうしたものかと困った様子である。都心の一部のみで流行っている超が付くほどのマニアックなアイドルユニットの名前を出して真似ているようだが、誰も元ネタなど知らずに空気が微妙なそれに変貌しつつあるのだ。
「ああ、もう分かったから。桃、机から降りろ。こっちへ来い」
 愛未だけが冷静になり、小柄な桃を教室の端に呼び出した。
 そして、そのまま強制的に廊下へと退出する。
 二人が廊下へ姿を消すと、また九重が調子に乗ったパフォーマンスを見せて男子達が変な盛り上がりを見せだすのだ。
 その空気を肌に感じ、更には状況を明らかに察していない桃の満面の笑顔を見て、愛未はその耐え切れない気持ちを思わず体の外へと思いっきり発射するんである。
「昇竜拳!」
「おお!」
 愛未の今までの中で一番綺麗なジャンプに、桃は純粋な驚きの声を上げるのだ。

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